寂しくなって抱きしめて欲しいのは(3)
「現状ではどのような対策を?」
「今は輸入に頼る部分が大きい。魔術師が食用植物自体に魔法を掛け続ける事により植物を急成長させるという手法で無理矢理生産している物もあるが、莫大な人件費コストがかかる。ヴェストリス王国に108人も魔術師を貸す事になったから、今までのように魔術師余りの状況でも無いしな」
つまりは私のせいで余計にジュピテール王国の状況が悪くなるということ!
なんということだろう、まさか私が足を引っ張ってしまう形になるなんて。……一刻も早く打開策を考えなければ。
「説明はこのくらいで良いだろうか? 嫁ぐ前からそれほど真剣に考えなくてもいいものを。……後ろにいる、確かドロシーだったか? 若干ジェニーの目の下に隈が見えるが、まさか婚約が決まってからいつもこんな調子なのではないだろうな?」
「おっしゃる通りでございます」
「ドロシー! お願いだから秘密にしてッ」
頼み込むがもう遅い。
クロノス様は私の体調変化に厳しい。一緒に暮らしていた時も、少し薬が欲しいとこぼしただけで血眼になりながら身体中をチェックしてきたりする程だったのに、告げ口なんてされたら!
「……ほう? 詳細を話せ」
「毎日毎日勉強漬けで、おかげで嫁入り準備が進みません。今日だって今から全身にクリームを塗る予定でしたのに……。お顔にも疲れが見えますし、皇太子殿下の元へ完璧な状態でお届けしなくてはならないのに間に合わないかもしれないと、私は気が気じゃないのです」
……ドロシーの裏切り者ー!! 本当に裏切られた訳ではないけど、幼少期よりいつだって私の味方だったドロシーに告げ口されるなんて!
「ジェニファー」
「……はい」
怒っている。クロノス様はお怒りの時には、愛称ではなくジェニファーと正式な名で呼ぶ。
「私が何を言いたいか、分かるな?」
「……はい」
流石に俯いてしまう。基本的にあまり怒らない人に怒られると、ダメージが大きい。
「そうやって直向きに頑張るのは美点だ。しかしそれで無理をしてはいけない。これ以上その生活を続けるというのなら、こうやって毎晩会話しながら体の手入れをしろと命令を出そう」
「……はい。……え? よろしいのですか?」
会話しながらの手入れ。同時進行出来て効率が良い。別に何も問題がないような気がするのですが……?
「お嬢様。実体がないとはいえ、皇太子殿下の前で婚前からドレスを脱ぐ勇気がおありですか?」
ドロシーに言われてやっと気がつく。
「む、無理です! 絶対に無理、っていうか駄目ですから!」
問題大有りだった! 思わず胸の前で腕をクロスして、クロノス様を睨みつける。
「絶対に無理か。流石にそこまで言われると少々傷つくのだが、ならば体を休める事も考えるように」
傷つくと言われると少し怯むが、しょうがない。
神様であったクロノス様にはある意味見られ慣れていだけど、だからといって今見られても平気かと聞かれたら当然恥ずかしいし、前にも説明したが現在のクロノス様はまだお子様なのだからそういうのは絶対に駄目!
「失礼ながら皇太子殿下。お嬢様は殿下のご年齢的に、そこまでのスキンケアが今すぐ必要だとは考えていないようでして。それこそそちらに着いてからでも間に合うとたかを括っていたのです。どうにかお嬢様の考えを改めさせていただけませんでしょうか。……本当は次回の報告書にてお願いするつもりでした」
「……ほう? ジェニーは美容に気を使うタイプだったと記憶しているが」
確かにそうですが、それは好きな人に可愛いと思ってもらいたかったからで。
クロノス様に見られないからって少し手を抜いていたのを、まさかこんな形で本人に伝えられてしまうとは……! 馴染みの侍女ほど大事にしなければならない。そんな当然のことを再確認させられる日が来るなんて。
……それにしても、報告書とは何だろう。まさか前に言っていた、私の日常を逐一報告するやつを本当にしているのだろうか。
「見せる相手がいないとやる気が出ないか。良いだろう。こちらに嫁いできたらその成果を存分に見せてくれ。勿論、ジェニーの許可がなければ触れぬと約束しよう」
「ありがとうございます皇太子殿下」
「え……な、なぜこんな展開になるのですか!?」
思わず叫んだ私と、それを見て「楽しみにしているよ」と笑顔で追い討ちをかけてくるクロノス様。私の後ろでドロシーは笑いを堪えている気配がするし。
……でも私は、またこうやってクロノス様とくだらない日常会話が出来るようになった事に幸せを感じていた。
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