寂しくなって抱きしめて欲しいのは(2)
「ジェニー! もう使ってくれたのだな。会えて嬉しい」
映し出されたクロノス様は12歳のお姿で、子供らしい満面の笑みだった。以前見た魔術師としてのローブ姿ではなく、貴族らしい仕立ての良さそうな服を着ている。
「私もお姿を見られて嬉しいですわ」
「どうした、寂しくなったのか? 今すぐに抱きしめてやりたいのは山々なのだが」
触れられる機能もつけるべきだったな、とかぶつぶつ言っているが、私は用があってお呼びしたのだ。
「それよりクロノス様。ジュピテール王国の経済状況について教えてくださいな。食料自給率がここ数年で大きく下がっている原因が知りたいのです」
私の言葉を聞いて、満面の笑みだったクロノス様の表情が引き攣った。
「……まさかとは思うが。それを聞くために私を呼んだのか?」
「はい。あ……夜分にお呼びして申し訳ございませんでした。クロノス様だってお忙しいですし、まだご年齢的にも睡眠は大切ですからね。また明日出直す事に致しますわ」
失敗した。つい自分の生活時間感覚でお呼びしてしまったが、クロノス様はまだ12歳。早い時間に就寝される可能性を考慮に入れていなかった私のミスだ。
「失礼いたしました。おやすみなさいクロノス様」
「待てジェニー! 呼んでくれる時間はいつでも構わないし、むしろ日中は忙しいから夜分の方がありがたい。恐らくジェニーと同じくらいの時間までは起きているから全く気にしなくて良い。毎晩呼ぶくらいで良いから」
慌てたような声で引き止められる。そういえば前に一緒に暮らしていた時もクロノス様は夜型で、朝はお寝坊さんなタイプであった。人間になった今でもそれは変わらないのかもしれない。
「でも流石に毎晩はご迷惑になると思いますけど」
「……人間になってから時折、夜の暗闇と一緒に不安が押し寄せるんだ。私の手が届かない場所でジェニーに何かあったらどうしようかって、不安になる。神の時は本当に片時も目を離さずに見ていたから、どうしてもギャップがね」
ずっと人間である私であってもクロノス様を想って不安になることが多々あったのに、元が神様だったクロノス様は余計に心細く、先の見えない未来に不安になったことだろう。
……あぁ。寂しくなって、抱きしめて欲しいのは、クロノス様の方だったのね。
「ではそちらに嫁ぐまでは基本的に毎晩お呼びしますね。私だって本当は毎日クロノス様とお会いしたのを我慢しているのですから」
そう答えると、クロノス様は年相応ではにかむような笑顔をこちらに向け、恥ずかしくなったのか目線をそらした後両手で顔を隠した。
「……ジェニーが可愛いすぎて辛い」
「それよりも食料自給率低下の原因を教えてくださいませんか」
話に一区切りついたところで、今回お呼びした本来の目的を再度尋ねる。クロノス様はきちんと何度も尋ねないと華麗にスルーしてくる時が多々あるのは、もう分かっていますから。
「ジェニーが真面目に前向きすぎて辛い……そこも愛おしいのだが。そこまで気になるというのなら、ちゃんと教えてやろう」
クロノス様曰く。どうやらジュピテール王国の食料自給率の低迷は、ここ数年の気温の乱高下にあるらしい。
本来ならこのヴェストリスよりも北にあるため夏は涼しく冬は雪に閉ざされるという気候を持つジュピテール。しかし何故かそのバランスが崩れ、夏なのに雪が降ったり、冬なのに暖かいといった年が存在するということだ。
「毎年では無いところが問題でな。対策をした翌年は通常の気候になったりするから困っている。魔術師でも気候はどうしようもないから」
クロノス様がどうしようもないとおっしゃるのなら、本当に魔法ではどうしようもないのだろう。
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