『次に会った時に謝ってください』(4)
「……ごめんなさいクロノス様。私、約束を守れないかもしれませんわ」
ならば最後の最後まで、クロノス様が好きだと言ってくださった姿で。凛として前を向いて。
……結局、今回も18歳までしか生きられそうにないわね。
次々と魔物達から吐かれる攻撃。明らかに私のみを狙ったその攻撃に安心する。やはり魔物に狙われているのは私なのだ。
昔とった杵柄じゃ無いけど、避けるだけならきちんと相手を見ていればある程度できる。それでもこう数が多いと避けきれず、真似事で剣で攻撃を受け止めるが当然剣が弾き飛ばされてしまう。……防げたのは一発か。
私は諦めて瞳を閉じた。斬首以外の方法で死ぬのは初めてだ。
しかし。激しい爆発音がしたわりに、私には衝撃は一切無かった。まるで何かに守られているような感覚がして……過去にもこんな事があったなと思いながら恐る恐る瞼をあける。
激しく土埃が立ち込める中、私は覆われるようにして守られていた。懐かしい白銀の双翼に。
――私がずっと……5歳のあの時に最後にお会いして以来、求め続けた輝きだった。
そして私を守る体勢のままドラゴンらしく火の玉を吐き、魔物達を次々と消滅させていく。以前とは攻撃方法も違うし、そのお姿も少々小さいが、私は偶然の一致ではないと思った。
「……クロノス、様?」
魔物が片付いた時点で問いかける。白銀のドラゴンのままでは表情が一切読めない。
「私が間に合わなければどうするつもりだったんだ」
記憶上にあるクロノス様の声よりもずっと高い、声変わりする前の少年のような声。それでも私には分かる、この怒りの混じった声がクロノス様のものだと。
長年探していた愛する人の存在を確認し、魔物の姿も見えなくなったことで緊張が解れ、ぺたりとその場に座り込んでしまう。
「……無策でしたわ。本当に申し訳ございませんでした」
白銀のドラゴンが白く発光し人の姿をとる。
その姿はかつての逞しくも美しい長髪の男性ではなく、まだ少しあどけなさの残る魔術師のローブ姿の少年だった。銀色の髪は胸までしかないし、金の瞳は前より丸みをおびている。フォード様よりは年上のようだが、青年と言うにはまだ早い。
「頼むから自らの命はもっと大切にしてくれ。心臓に悪い」
座り込んでしまった私の前で膝をつき、クロノス様は哀愁漂う表情で私の髪に触れた。いつの間にか解けてかなり乱れてしまった上、魔物の攻撃で変に切れてしまった髪が耳に掛けられる。
「まずは約束を果たそうか。『遅くなってすまない』。会えない間も、一瞬たりとも忘れたことは無かった」
込み上げてくる想いでどうにかなってしまいそうだった。また会えただけでなくて、ちゃんとクロノス様は「次に会った時に謝ってください」という私の言葉を覚えていてくれた。
「あとは『このような時に聞くのはお礼のほうがいい』だったかな。ジェニー、君がそう教えてくれたんだよ」
「はい……そうですよね、グスッ……。助けてくださってありがとうございます。私も、クロノス様を忘れたことなどありませんでした」
涙が止まらなくなって人前なのにぐすぐすと泣いてしまう私。髪を触っていたクロノス様の手が私の頬に添えられて、目元に溜まった涙滴がキスで拭い去られた。
「離れたくないけど、ここまでだな。結界の中に魔物を残して来ているから助けに行かないと」
「もしかしてあの結界はクロノス様が……?」
質問に対する返事はなかったが、無いと言うことは正解なのだろう。いつだってクロノス様の淡い微笑みは肯定だった。
……説明不足な所が神様だった時と一緒で、懐かしさでさらに涙が溢れた。
「その辺はまた詳しく説明するから、今日は安全な所で休んでくれ。……おやすみ、愛してる」
そう言い残すとクロノス様は一瞬でドラゴンの姿になり飛び立つ。そして自ら作ったと思われる結界の中へと姿を消した。
「……行きましょう。」
余韻でぼーっとしてしまったが、フォード様の声が私を現実に引き戻す。逃がしたつもりだったが、まだ近くにいたようだ。
特に深く考えずに差し出されたその手を取り立ち上がる。
……私はクロノス様とお会いできた喜びで、周りがよく見えていなかった。だからこの時のフォード様の表情を……思い出すことはできなかった。
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