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つまり私に求められているのは(1)

 クロノス様が降り立ったのは、素朴ながらも美しい庭だった。冬なのに私の髪色と同じ色の薔薇が咲き誇り、小鳥が囀りを奏でる。用水路ほどの大きさの小川まで流れており、その向こうには小さな一軒家が立っていた。幼い頃に両親と別れ煌びやかな城に缶詰にされて育った私が憧れていた……穏やかに家族で暮らすような、庭付きで素朴な普通の一軒家。少し裕福な商家レベルだ。

 

「可愛らしいお家ですね」


 予想外の光景に、率直な感想が出てしまう。神様は、私が缶詰にされた城なんて目にないくらい豪華絢爛な屋敷に住んでいると思っていたので、正直拍子抜けした。

 

「ジェニーの為に作った空間だ。君は昔からこういう感じの家が好きだろう? 君がこの空間の外に出る事は、基本的に今後一切ない。窮屈かもしれないが我慢してもらうよ」


 ……昔から?

 少し疑問を抱きながら空を見上げると、雲一つないが……私が城下町に張っていた結界と同じようなもので覆われていた。そのままぐるりと辺りを見渡す。庭の端には鉄製の柵があり、その向こうには平原が広がっているようだ。なんとなくその景色に違和感を感じ柵に近寄っていくと、その柵の隙間には透明の壁が施されていた。


「庭より向こうは幻覚だ。この敷地からは危険だから出てはいけないよ。まぁ、聖女の力も封じられたジェニーには出られないと思うが」

「封じられた? 聖女の力が、ですか?」

 

 疑問に思って聖女の力を使おうとしてみるが……使えない。あと、左手薬指の付け根にピリピリとした痛みを感じる。


「ほら……またそうやって気になった事は何でも確かめてみるんだから。探究心があるのは良いことだが、無理をしてはいけない」


 ……またそうやって?

 そんな事を言われるほどの付き合いは無いはずなのだが。そう考え込んでいると、クロノス様が人の形に成り、私の左手を両手で挟むようにして擦る。その体温の温かさは人間と一緒だった。


「あの、クロノス様。私色々とお伺いしたい事がありまして……」


 禁書である程度は知ることができたが、聖女の力の謎。あの城下町にあった石碑がキーとなる理由。そしてこのウエディングドレスのような服装や、私の事を昔から知っているような口ぶりについても。解消したい疑問点が沢山ある。

 クロノス様と顔を合わせて話をしたいと思いベールをあげようとするが、「それは私の楽しみだから奪わないで」と、止められてしまう。


「おいで、知りたがりのジェニー。まずは家の中を案内しようか」


 招かれるままに家の中に入り、案内を受ける。シンプルだけど温かみのある素朴な可愛らしさあふれるリビング。安全面が考慮された手すりのついた階段。廊下の突き当たりには花瓶に生けられた花が飾られていて……2階の1番奥の部屋が寝室。そこに用意されていたのはキングサイズの大きなベッドだった。寝室は他の部屋に比べて少し高級な家具が並んでいるように見えるが、それでも今までの暮らしと比較すればシンプルな方だ。気を張らずに生活出来そうで好感が持てる。

 

「先程私の為の空間と仰いましたが、私はここで一人で暮らすのですか?」

 

 神の領域なのであればきっと不便は無いのだろうが……ずっとひとりぼっちなのは寂しい。それに使用人の類も一切見当たらない。


「まさか! 用事が無い時は、私もずっと一緒にいる。私達共用の寝室だ」

「共用……」

 

 つまり私に求められているのは……もしや、そういう事なのか。先程の抱擁と口付けを思い出してしまって、つい顔を赤くしてしまう。経験がなくとも、ちゃんと知識としては知っている。勿論、そのお相手はバートン様しかないのだと……疑いもせず18年間生きてきたわけだが。


「ジェニー。私はずっと君を見守ってきた。力を分け与え特別に目をかけて、君が私を呼んでくれるのを待ていたんだ。……あぁ、こうやって触れる事ができるなんて、まるで夢のようだ」


 クロノス様は割れ物を扱うかのように慎重に私のベールをあげ、そっと頬に触れてくる。その長い指先は男性なのに美しく整っていて……そんな所からも、この美術品のような人は人ではないのだと思い知らされる。


「……ずっと、ですか?」


 ずっと、とはいつからなのだろう。クロノス様は私が繰り返しの輪廻に囚われていた事もご存知なのだろうか? それとも……。


「やっとだ、やっと私のものになる。気が狂いそうだった……あの時からずっと君だけを愛していたんだ。考え込むのは後にして、今は私だけを見て欲しい」


 そう言ったクロノス様は私に口付ける。先程の割れ物を扱うようだった態度とは真反対、吐息をも飲み込むような激しい口付けに立っていられなくなり、力が抜け膝が勝手に折れてしまう。しかし口付けたまま無理矢理掻き抱くようにして、クロノス様は私を立ったまま求め続けた。いつの間にか足先は宙に浮いてしまい、ただ抱き枕のようにクロノス様に抱かれ、愛を受け止め続ける。


「触れる事もできず、ただ見ているだけで辛かった……私のジェニー。もう二度と消えないでくれ、永遠に私のそばに居てくれ」


 不思議と拒絶心は湧かなかった。先程初めて会ったはずなのに……長い間助けを求め、お会いしたいと必死に願い続けたせいだろうか?


 私が拒絶しないのをいいことに、クロノス様は私をベッドの上に押し倒す。綺麗なウエディングドレスにその手が掛けられた瞬間には、流石に小さな悲鳴をあげてしまった。


「……どうか、ジェニーの全てを私に。私だけを見て、私以外はその心から追い出して欲しい」


 我慢ができないと言わんばかりの態度で、クロノス様は私の体に指を這わせる。綺麗な指先が感触を確かめるかのようにして私の肌に埋まり、きらりと光を反射する白銀の髪がその光景を飾るかのように私の肌に垂れた。

 

「怖いか? 人ではない私が」

「……ちがうので、す。あの、こういう事初めてで……す、少しだけ緊張していまして……」


 展開の早さに少しだけ恐怖心を抱き、つい黙ってしまっていた、とは言えなかった。だって私の全ての時間を差し上げるとお約束したのだから。クロノス様は私が生きている限り、私を自由に出来る。約束は違えてはならない。


「そうだったな……極力優しく愛するようにするが、私も気が遠くなるような時を我慢してきたのだ。少々荒くとも許せ。後から優しくするから」

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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