『次に会った時に謝ってください』(3)
王宮の奥には我が国で数少ない魔術師達が常に交代で結界を張っている部屋があり、いざという時王族だけは守れるようになっている。そこへ人々を避難させ、かなり窮屈だが待機していてもらう事になった。
「ジェニファー!」
部屋の外からお父様が私の名を叫んでいるのが聞こえる。どうやら探されているようだ。
「お父様、私はこちらに!」
大声で居場所を示しながら部屋の外へ出ると、焦ったような表情のお父様が駆けてきた。
「ジェニファー、フォード様とは一緒ではないのか!?」
フォード様とは会場で別れたきりである。国王と後方の来賓を逃すからと……
「もしや、居ないのですか?」
「王曰く、皆を避難させた後に居なくなったらしい。彼らはエディソン侯爵家の護衛達に守らせているが、フォード様は戦えないだろう。どちらへ行かれたのか……てっきりジェニファーの所へ来ているのかと思ったのだが」
あのフォード様がこんな状況で突拍子もない事をするとは思えないが……と考えるが、彼は正義感の強いタイプだ。もしかすると、兄であるバートン様を助けようとあの場に戻ってしまったのかもしれない。
「私、探して参りますわ」
「お前は無理しなくていい。ただでさえ魔物に狙われやすいのだから隠れていなさい」
お父様の意見はごく真っ当で正しいと思った。私が親でも子供にそう言うだろう。……それでも。
「ごめんなさいお父様。それでも私はこうするのが正しいと思うし、フォード様に何かあったら後悔するわ」
そう告げるとドレスの裾を後ろに蹴るようにして足を上げ、両足のヒール靴を脱ぎ捨て走り出す。
「探すのは広間手前の中庭までとお約束しますわ!」
後ろからお父様が怒鳴る声が聞こえるが、走るのはやめない。辺りを見渡しながら走るが目につくのは慌てる王宮の使用人の姿ばかりで、フォード様の姿はない。
どこに行ってしまったのか考えるが、もう心当たりは先ほどの広間しかない。でもこの国の第二王子であるフォード様が危険な場所に向かっていたら、流石に使用人たちが止めると思うのだが。
そうしているうちに、広間の隣にある中庭へ辿り着いてしまった。どうか見つかってほしいけど……という思いで辺りを見渡すと。
「頼むから離してくれ! 僕は兄上をお助けしなくてはならぬのだ!」
「駄目です、王子をあんな危険な場所に行かせたと知られたら、我々はバートン様に斬首刑にされてしまいます!」
「王子に何かあったら、ジェニファー様は他のお方に嫁ぐんですよ!?」
どこから持ってきたのか、剣を持ちあの場に戻ろうとするフォード様と、それを全力で引っ掴んで止めようとするフォード様付きの侍女が2人。
……私はフォード様に何かあろうがなかろうが、フォード様には嫁ぎませんが。なんてツッコミをしている場合ではないので、3人に急いで駆け寄る。
「ジェニファー様ぁ! 助かりました、お願いですから王子を止めてください!」
侍女から期待の眼差しを向けられるが、全力で走ってきたので息が切れ喋ろうとすると咳混んでしまう。
そんな私の様子を見て、広間に戻ろうとしていたフォード様は、止まった。
「もしかして僕を探してくださっていたのですか?」
咳き込みながら頭を縦に振った。しゃがみ込んで地面に片手をつき、もう片手で口元を抑えると、大層心配そうな顔をしてフォード様が寄り添ってくれる。
「そんな……! ジェニファー様は魔物に狙われやすいのですから、どうかすぐに安全な場所へ」
「フォード様も……、私と一緒に逃げてくれないと、いやなの」
うんと可愛げのある声で、フォード様の目を見つめてお願いする。
……参考にしたのはヘレンだった。背に腹は変えられない。この言い方ならきっとフォード様は素直に聞き入れてくれると確信しての発言だ。
顔を赤く染めるフォード様には大変申し訳ないのだが、こちらの作戦通り素直に一緒に来てくれそうなので胸を撫で下ろす。まるでヘレンのような「女」を利用した行動で自己嫌悪感が半端ないのだが、しょうがない。きっとクロノス様も緊急時だったと説明すれば許してくださるだろう。
「そう、ですね。ジェニファー様立てそうですか?」
フォード様が手を差し出してくれるのでその手を取って立ち上がる。
冬の植物が生い茂る中庭のアーチの向こうに、大きな結界が見えた。きっと周りに被害が及ばないように、会場となった広間と魔物をまるっと結界の中に閉じ込めてしまったのだろう。あれだけ大きな結界を張れる魔術師がいるのであれば、きっと中にいる人々も無事だ。
そう思いながら立ち上がり、戻ろうとしたのだが。もう一度空を確認し、叫ぶ。
「――危ない!!」
私は全力でフォード様を突き飛ばす。そのせいで自分が避けるタイミングが遅くなり、なびいた髪がざっくりと切れる感触があった。
ギリギリで怪我は免れたが……油断した。魔物は全てあの結界の中にいると思い込んで確認を怠った私自身のミス。最近の魔物達は狡猾にその姿を隠しながらこちらを狙ってくるのを分かっていたのに。
目の前には地上型の魔物が2体と飛行型が5体。戦えない私1人でフォード様達3人を庇いながら逃げ切れる数ではない。
「――ッ、ジェニファー様、逃げてください!」
立ち上がったフォード様が私を背に庇うようにして前に出る。駄目、フォード様だけでも逃さなければ!
「……フォード様、どうか侍女たちの事を守ってあげてくださいね」
それだけ告げると、フォード様の膝の裏を思いっきり蹴り飛ばしてバランスを崩させる。前に向かって転びそうになったところを捕まえて、全力で後方に投げた。
「連れて行きなさい!」
私が叫ぶより先に動き出していた優秀な侍女達は、投げられたフォード様を捉え2人がかりで拘束する。
「ジェニファー様ッ!!」
フォード様の叫び声が聞こえる中、私は彼の落とした剣を拾う。フォード様が持つよりは私が剣を持つ方がマシなはずだ。だって以前は聖女として散々魔物退治に参加した。自分で剣を握ったことはなくとも、沢山の兵が戦う姿を見てきた。
少し時間を稼ぐ程度の真似事であれば、あの4人の中では私が一番適任だったはず。
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