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『次に会った時に謝ってください』(2)

「それにしてもお上手ですねフォード様。バートン様とより踊りやすいです」

「……バートン兄上と踊られた事があるのですか? 僕が見ていた限りだと今までジェニファー様は兄上と踊られた事はなかったはず。宰相の家系であるメディス侯爵家の後継とはよく踊っていたようですが」


 しまった、話題を変えようと思って失敗した。バートン様と踊っていたのは以前婚約者だった時。今回0歳からやり直してからは1回も踊っていない! それにまさか私が今までに踊った相手を把握されているなんて……


「あぁ……僕の生まれる前でしょうか。なら仕方がないですね。兄上には今後二度とジェニファー様と踊らないよう釘をさしておきます」


 勝手に納得してくれたが、声のトーンが低い。


 ……もしかして偶然バートン様が頓珍漢なアドバイスをしただけで、この正義感の強い子犬系王子の素はこちらの執着系なのでは? と、思えてしまう。貼り付けた笑顔が引き攣りそうだ。



 そんな事を思っていると丁度曲が終わり、次のダンスへと移るタイミングとなった。


「ありがとうございましたフォード様。私は来賓の皆様への挨拶が終わっていないので失礼させていただきますね」


 言い訳に聞こえるかもしれないが、挨拶が済んでいないのも事実。早く本来期待されている仕事に戻らなければ。しかしなかなかフォード様が手を離してくれない。


「あの、どうかなさいましたか?」

 

 フォード様は何も言わずそのまま跪き、私の手の甲に口付けた。伏目になっていた瞼が開き、グレーの瞳がこちらを見上げる。その上目遣いの瞳が先ほどの子犬とはうって変わって鋭い狼のように見えて、思わず鳥肌が立った。

 

「僕が送ったドレスも宝石も受け取ってもらえなかったのだから、これくらいはいいでしょう? ……僕にもチャンスが欲しいなぁ」





 フォード様がそう言った瞬間だった。地響きのような音が鳴り響き、バルコニー側の窓ガラスが次々と割れていく。


 何事かと一瞬固まってしまったが、ハッとしてフォード様を守るように抱き寄せる。この場で緊急時優先されるのは、我が国の王族と来賓の安全だ。


「皆様どうか落ち着いて――」

「伏せろッ!!」


 周囲に呼びかけようとしたその時、私の声を上塗りするようなバートン様の大声が響いた。反射的にフォード様を押し倒す形で床に伏せる。ほぼ同時にバルコニー側の壁が外から破壊され、凄まじい風が吹き込み土煙が舞った。結っていたはずの髪が風になびき、思わず目を閉じそうになるが薄目で状況を確認する。


「な……!?」


 原因は魔物だった。

 今まであまり見かけたことのない3m程の大きさがある魔物がざっと見ても10体。唸り声をあげているそれらのはるか後方には飛行型の魔物が何匹も飛んでいるのが確認できる。

 国外の来賓を招くので、この宮中は今のヴェストリスが出来る最大級の警備を敷いていたはずだ。それをこんなあっさりと崩されては我が国の恥。赤面を通り越して真っ青になりそうだ。



 ――この場をどうにか切り抜けなければ。



 少しだけ体を起こして周りを見渡す。辺りにはいくつか魔法の結界が張ってあり、それが幾分か建物が破壊された衝撃を和らげたようである。大きな結界を張るよりも小さい結界をいくつも同時に張る方が速度が速く、緊急時にはそちらが適しているのだ。

 魔術師が弱く物理至上主義な我が国にここまで出来る者はいないので、きっと諸外国からの来賓のどなたかが咄嗟に守ってくださったのだろう。


 バルコニーから離れた後方を確認すると、お父様がエディソン侯爵家の護衛を集めるように指示を出していた。魔物に狙われやすい私の為にいつも数名は連れ歩いており、彼らの実力であればある程度戦える。


 次にバルコニーに近い方を確認すると、土煙がまだ酷い中咄嗟にヘレンを守ったのであろうバートン様の姿が確認できた。

 馬鹿2人は放っておいても生き長らえそうなので……というのは冗談。バートン様は馬鹿だが自分の身を守る程度なら戦えるし、持ち前のカリスマ性でこういう状況の指揮だけは得意なのだ。そして、自らは戦えずとも「チャンスをモノにできる」ヘレンが付いていれば、きっと彼らは負け戦でない限りは大丈夫。


「戦える者はどうか手を貸してくれ! それ以外は皆避難だッ」


 ならば私がすべきなのは、戦えない人々の避難。急いで立ち上がり、バートン様の命に従う。


「皆様こちらへ! 逃げましょう、王宮の奥へ!」

「僕は父上と会場後方の来賓を逃しますから、前方をよろしくお願いします!」


 フォード様自身も守られるべき立場年齢のはずなのだが、今この状況では指示して動ける人間は限られている。申し訳ないが半分はフォード様に任せ、もう半分の人々を逃すために指揮を取った。

 逃げる人々と魔物を倒すためにこの場に突入してくる兵達が交差し、まるで場が戦場のようになってしまう。ある意味戦場で合っているのがなんとも皮肉な話であるが。

 そんな中でも来賓として招かれていた人の中に魔術師が複数いたようで、物理至上主義の我が国が苦手としている飛行型の魔物を一手に引き受けてくれているのが確認できた。


 これが落ち着いたら、我が国の魔術師のレベルアップを計らなければ。そう思いながら、逃げる人々と一緒に王宮の奥へ奥へと避難した。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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