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『次に会った時に謝ってください』(1)

――貴女、本当にこの世の人間?


 ヘレンの言葉を思い出す。本当に聖女であったヘレンがそういうのだから、何かしら普通の人間とは違った部分があるのかもしれない。

 手をグーパーしてジッと見つめてみるが、別に透けていたり変な部分はない。


 107回も処刑されて、108回目でやっとクロノス様に助けられた。その後時空の歪みにはまってしまった私は人生1回目まで巻き戻されやり直す羽目になったけど、生きている。魔物の大規模襲来の時に死にかけたけど、それでも。


 フッと軽く息を吐いて辺りを見渡す。今日は諸外国からの来賓をもてなす為に王宮の広間で宮中晩餐会が開かれており、この前「二度と足を踏み入れるものか」と決意した王宮に来ることになってしまった。煌びやかな内装に、歓談のバックに流れる軽い音楽。それと対比するかのように私の気は重い。

 13年前魔物の襲撃により大きく壊されたヴェストリス王国。これを援助する為周囲の国がいまだに手を貸してくれており、ジュピテール王国、リュンヌ帝国、メルキュール公国、ヴェニュス王国……その数をあげればきりがない。特に海を挟んで北側の対岸にあるジュピテール王国は当初から熱心に援助を行ってくれた国の一つ。


 だがそのジュピテール王国が自国の食糧難で今後の支援を減らすと通告してきた。それに足並みを揃えるかのように他国も支援を減らす動きを見せてきたので、今後の話合いをするために集まってもらったというわけだ。


 そして、まずは親睦を深めるために晩餐会ということなのだろうが、とにかく私の気分は地に落ちていた。以前214回もこの広間にて婚約破棄された記憶が甦ってくるのと、会いたくない人物がこの場に複数名いるせいだ。



「えぇ〜、バートン様ぁ。ヘレンは大丈夫だと思うのぉ」

「ヘレンが大丈夫でも私が大丈夫ではないのだ。どうか今日は大人し目で頼む」


 聞きたくない声ほど耳に届くもの。この国を継ぐ第一王子としてこの場にいるバートン様に、その婚約者だから招かれたのであろうヘレン。

 ……会話内容からすると、ヘレンがまた何か無茶な事をしようとしてバートン様が止めているといった感じだろうか。ヴェストリス王国の未来がかかっているとも言えるこの期間中だけはどうか大人しくしていて欲しい。


「だって素敵なお方が沢山いらっしゃるわ。少しご挨拶するくらい、次期王妃として当然でしょぉ?」

「だからそれが問題……ンッ――ゴホン! ヘレンを他の男に見られるのが、嫉妬で狂いそうなんだ。どうか私のお願いを聞いてもらえないだろうか」


 なるほど、また他の男性に色目を使おうとしていたといったところか。制御を試みるバートン様も大変そうだなぁと思ったが、以前とは違いヘレンにそこまで熱を上げているわけではなさそうである。


「やだぁバートン様ってば嫉妬してたのぉ? 心配しなくてもヘレンはバートン様だけのものですよぉ――っあ! あの銀色の髪の子にだけ挨拶しようかしら」


 銀色という言葉に反応してバッとヘレンの方を見る。バートン様に引きずられるように会場の隅に引っ張られて行っているところで……辺りを見渡すが、銀色の髪の人間は見当たらない。

 焦る気持ちを表に出さないよう尚且つその人間を探そうと会場内を歩いていると、縦にも横にも立派な体型の中年男性がそばに寄ってきた。我がヴェストリス王国の国王だ。


「エディソン侯爵令嬢、申し訳ないが今日明日は頼んだぞ。そなたがいると、諸外国の財布の紐が緩くなるのだ。存分に我が国に有利な援助条件を引き出してくれ」


 それはそうだろう。だって以前は貴方の馬鹿息子が馬鹿なせいで、代わりに私が交渉事をしていたのですから。嫌でも得意になります。

 

「まぁ、恐れ多いですわ。それはお父様が交渉上手なだけで、私は横に付いているだけですから」

「そう謙遜するでない。そなたが王家に嫁いでくれれば実に助かるのだがな」


 絶対に嫌です。そうは言えないのでただにっこりと微笑む。


「フォードもまだ10歳だ。成長するまでどうか見守ってやってくれ。あの子はきっと立派な男になる、数年後に判断してくれれば良い」


 私も折れないが相手も折れない。お互いに微笑みながら火花を散らし合う展開になってしまったが、それに待ったをかけるようなタイミングでバックで演奏されている音楽が変わった。どうやら今からはダンスの時間のようだ。


 ……いけない。早く国王の前から逃げなければ。そう思ったがもう遅かった。


「ジェニファー様! ファーストダンスは僕と踊ってくださいませんか」


 出た。尻尾がぶんぶん振られている幻が見えそうな勢いでやってきたフォード様にダンスを申し込まれる。

 ちょっと待って、今日の私の仕事は来賓との交流であって、決して自国の者同士交流を深める為ではないのです。


「父の気遣いを無駄にするでないぞ」


 国王は息子の肩をポンと1回叩き、笑いながら立ち去っていく。……やはり国王の真の目的は私の足止めだった。息子が意中の相手とダンスを踊る為の。


「ジェニファー様、お願いできますか?」


 上目遣いで子供らしく可愛くお願いされると……罪悪感で断れません!


「……第二王子のお相手ができるなんて光栄ですわ」


 そう言わざるを得なかった。こんな大勢の前、しかも諸外国からの来賓が集まった宮中晩餐会で王子がダンスをお断りされるだなんて、我が王国王室の恥。明日からの国同士の勢力関係に影響が出ては大変だ。

 観念してフォード様の手を取り、踊り始める。私の方が背が高い為踊りにくいかと思いきや、意外とフォード様のリードが上手でむしろ踊りやすい。

 

「ヘレン様が言った通りだ。バートン兄上の助言は全然役に立たなかったな。沢山贈り物をしたのに」


 やっぱりあの執拗なプレゼント攻撃はバートン様の入れ知恵だったのですね。フォード様らしくないと思っていました。

 ……それよりも気になるのはヘレンの助言の方だ。ヘレンには私がクロノス様一筋だと伝えたはずなのに、フォード様に助言なんて!


「聖女様にどのような助言をいただいたのですか?」

「素で勝負しなさいと言われました。本当は聖女の力で協力してもらいたかったのですが、断られてしまいまして……恥ずかしいです。こういうのは自らの力で頑張るべきですよね」


 ヘレンにしてはごく真っ当なアドバイスだった。聖女の力で協力しなかったのは……私を王室に入れたくないからか、はたまた私の心を知っていたからか。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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