チャンスを掴む力(2)
まばゆい光に一瞬だけ包まれた男性の傷は、光が消え去った時には完治していた。周囲にいた人々から歓声が上がる。アーモンドで口をいっぱいにされた男性も、嬉し泣きしつつ咽せながら、必死で口内処理に追われていた。
「ん、誰か呼んだぁ? ピンクの人どうもありがと〜。お陰でこの人助かったよ」
「聖女様ピンクって……ヒッ!? 聖女ヘレン様、あのお方はエディソン侯爵令嬢でございますよ!」
こちらに気がついた神父が急足でやってきて頭を下げる。その顔は先程の場の歓声は何だったのかと思えるほど真っ青だ。
「気が付かず立たせたままにしてしまい、申し訳ございませんでした。聖女ヘレンも、きっと貴女様が身分の高いレディーだと分かっておらず……!」
「神父様。身分なんて関係ない、人間の命の方が重く大切なものです。怪我人を放っておいて私の対応をされていたら、それこそ私は怒って説教しましたわ」
そう言えば理解してくれたのか、神父は更に深く頭を下げた。
「聞いたことあるかもぉ。ジェニファー様、でしょう? 変な女だってバートン様が言ってたもん」
その神父の後ろからひょっこり現れるヘレンと、その発言によってハラハラしている神父様。以前のように憎らしげな笑みは浮かべていないが、その口調はあまり変わっていない。
正直、また目をつけられて嫌がらせされても困るし、処刑されない為には接しないのが一番だと考えていたのだが……状況が変わってしまった。
先程の男性の傷。遠目にだったが、深くて通常の治療や軽い治癒魔法で治る見込みは低いように思えた。それが、口にアーモンドを詰めて祈った瞬間に急に完治したのだ。普通に考えておかしい。
このヘレンがどのような原理の力を使っているか知る必要がある。……勿論本人が理解していない可能性も高く、無駄足かもしれないが。
「聖女ヘレン様、初めまして。ジェニファー・エディソンと申します。本日は教会の建具の件で訪問させていただいたのですが、聖女様がいらっしゃるのなら大丈夫かしら?」
令嬢らしく挨拶するが、ヘレンの方から挨拶は無い。
……挨拶は基本中の基本だと以前教えたでしょう!? と怒りたくなるが、しょうがない。このヘレンは私がマナー教育をしてあげたヘレンでも、私をいじめてきたヘレンでも無いのだから。
「ふーん。ねぇ神父様ぁ、建具って事はヘレンにはどうしようも無いやつだよねぇ?」
「ジェニファー様申し訳ございません。聖女ヘレンは奇跡を起こす事が得意なのですが、他はからっきしでして……」
「確かに先程の治癒は奇跡のようでしたわ。治癒の魔法では無いようですし、あれが尊い聖女様の力なのですね。とても素晴らしく感銘を受けました」
ほぼ定形文な言葉で向こうを持ち上げて褒めると、ヘレンは「へへん」と自慢げにし神父様に怒られている。
「もしよろしければ色々と聖女様のお話を聞いてみたいですわ」
先程までただ愛らしいリスのような表情だったヘレンの顔が、変わった。こちらに対し明確に敵意のある眼差し。
……私にとってはこちらの方が馴染みがあるのだが。
「じゃぁ〜、オンナノコ2人だけでお話しましょうかぁ。神父様ぁ、隣の部屋ちょっと借りますぅ。だってこんな場所で立ち話なんて失礼でしょお」
つまり他の人間には聞かれたくない話をしたいという事か。ある意味好都合なので、場所を変えたいというヘレンの要求を素直に受け入れる。私の連れてきた護衛たちに向かって「えー、ヒミツのお話聞かれちゃうのぉ?」なんて突っかかっていくので、彼らには部屋の入り口の外すぐのところで待つように命じておいた。
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