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チャンスを掴む力(1)

 冷たい空気が身を引き締める朝。水で顔を洗った後、ドロシーからおずおずと一通の手紙が差し出された。思わず顔が引き攣る。


「……今日も?」


 実は前回お会いしたあの日から1ヶ月間、毎日フォード様から手紙が届いている。内容を見たところ、やはり兄のバートン様から私の発言を聞いてしまったようで、毎回必死なアプローチが紙いっぱいに綴られている。

 ちなみに私からの返事は5回に1回しか書いていない。……だって、お返事を書く前に次から次へと手紙が送られて来るのだもの。結構狂気的だ。


「しかも今日は赤とピンクの薔薇が馬車いっぱいに三台分届いておりまして」


 初めは普通の花束だったのに、段々規模が大きくなっていく。最終的に家一杯とか送ってきそうで怖い。私に断られて気が触れてしまったのだろうか。


「更に馬車の御者がプレゼントとしてピンクダイヤモンドのネックレスを預かってきているようでして」

「お願いだからそれは受け取らずにお返ししてきて」


 うん、本気で怖いかもしれない。

 花言葉や宝石言葉は……もう考えない事にしよう。私は何も気が付かなかったわ。


「フォード様がここまでなさるなんて、意外ですね」

「どうせバートン様が、頓珍漢な方向にアドバイスなさったのよ」


 こんな状態、クロノス様がご覧になられたら……恐ろしい事になりそうだ。だって鏡に映ったカイロス様と話す事ですら嫌がられていたのに、こんな熱烈にアプローチされているなんて知られたら。


「と、とにかく私は今日も視察があるからフォード様の対応をお願いね」


 自分でフォード様のプレゼント攻撃の対応をしたくなかったのもあるが、本当に今日は視察が入っており忙しいのだ。申し訳ないが手紙を読む時間も無いので未開封のまま机に置き、急いで支度をして屋敷を出た。






 馬車で1時間ほどの場所にある教会が今日の訪問先だった。知らぬ間に建具を壊される被害がここ13年で多発しているらしい。本来なら私が出向くような案件では無いのかもしれないが、『ここ13年』という所に引っ掛かりを覚えた為、数人の護衛と一緒に訪問することとなったのだ。



 到着し馬車を降りると、冬の寒空を背景にして聳え立つ懐かしい教会の姿があった。


「……久々ね」


 ここは以前聖女としてよく訪れた場所だった。


 教会の中に治癒院が併設されており、そこでの怪我人の治療が主な目的であったのだが。それ以上にヘレンの印象が強い。毎回この教会の前に王宮の馬車を横付けして優雅にお茶を飲んでいた事や、周りの人間に取り入って私を悪く言っていたのを思い出す。

 ……思い出すと腹が立ってきたので、この仕事が終わったら帰りの馬車で持参したアーモンドでも食べよう。

 自らにご褒美を用意し気合を入れ直しつつ教会の扉を潜った。


「失礼いたします。――どなたかいらっしゃいませんか?」


 普通は入ってすぐに神父様がいらっしゃるのだが、誰もいない。後ろからついて来ていた侯爵家の護衛の1人が教会の裏手に様子を見に行ってくれるが、どうも教会の奥の部屋が騒がしい。

 ……確かあの部屋が治癒院だったなと思い出し、教会の中へと足を進めた。




「急いで包帯持ってきて!」

「痛……! 頼むから早くッ」

「薬はどこなの!?」


 治癒院となっている部屋のドアを潜ると、バタバタ走り回る音や悲鳴に近い声、呻き声が多数聞こえてきた。


「聖女様は!?」


 その言葉で思わず体が反応しそうになるが、違う。今の私は、聖女では……


「お待たせぇ! 薬草取ってきたからこれで大丈夫〜」


 私の後ろから茶色の髪の女性が室内に走り込んできて、まるでスライディングするかのように怪我をした人の元へと急ぐ。どうやら酷い怪我をしている者がいるようだ。


「ん〜、これでもまだ難しいかもぉ。何か回復出来そうな物とか、体力付きそうな物持ってる人いない? ねぇ、そこのピンクの人!」


 その茶髪の女性がこちらに向き、明確に私を指差した。見覚えのあるリスのような愛嬌のある顔立ち……


「ヘレン・オリバー……子爵令嬢」


 まさかこんな場所で偶然出会ってしまうだなんて思いもよらなかった。今までにされた数々の嫌がらせ、こちらを見下すような表情。

 それらは全て以前の彼女にされたことで、今の彼女には何もされていないけど……それでもショックで体が固まってしまう。


「あれ私の事知ってる? それはまぁどうでもいいんだけど〜、何か持ってない?」

「え、と。……即効性のある物は何もありませんわ。食べ物でしたらアーモンドでよければ手持ちにありますが」

「それでいい! 全部頂戴ッ」


 よくわからないが、すごい剣幕でアーモンドを求められたので、ポケットから手のひら大の袋を取り出してヘレンに手渡す。するとヘレンは怪我人の男性の口を開いて無理やりアーモンドを大量に詰め込んだ。


「え!? それではその方が窒息して……!」


 突拍子も無い事をしだしたヘレンを止めようと駆け寄ろうとするが、辞める。どこか懐かしく身に覚えがあるような……神の力を感じたからだ。



 ――クロノス様?



 反射的にそう思ったが、違う。似てはいるが、これはクロノス様の力ではない。それに、この力の発生源は……ヘレンだ。

 アーモンドで口をいっぱいにされた男性に両手をかざしたヘレン。その手からまばゆい光が放たれる。



 ――ああ、ヘレンは本当に……



「……聖女様、だったのね」

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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