それを、私が(2)
こんな展開ですが、ハッピーエンドになります!(´;ω;`)
「だから、ちゃんと最初から最後まで説明してくださいッ!」
先程よりはずっと大きな声が出た。一旦声が出てしまえばその後は震える事なく言葉が出てくる。
「私を愛していると仰るのなら、全て説明してください。クロノス様は、一体何をなさろうとしているのですか? 私はクロノス様とまた一緒に暮らせるのなら、それだけで良いのです! それこそが、私の願いなのです!」
沢山の辛い経験を乗り越えてのハッピーエンド。
もうこれだけで十分ではないか。それ以上の可能性なんて追求しなくていい。
「……私もジェニーと一緒に暮らしたい。可能であれば、我々2人の血を引く子供達と共に」
――子供?
「もう子供の話はうんざりですわ。私はクロノス様と2人で暮ら……今、何と仰いました? 人間と神様との間に、子供は出来ないのでは……」
だから我々2人の血を引く子供なんて、ありえない。
「そうだ。だからこそ私は……神を辞めて、ただの人間として生まれ変わる。そうすれば同じ人間同士、子を成せるだろう?」
予想外の発言に動揺が走る。そしてそれを想像し虚無感に襲われた。
「生まれ変わる、という言葉をそのまま取るのであれば、一度クロノス様はお亡くなりになるという事でしょう? 私はそんなこと少しも望んでいません。生まれ変わって再会できるかも分からないのに、そんな不確実な事に賭けて幸せを手放すなんて……絶対に嫌です。お断りします」
再会し喜んでしまった分、余計に残酷な仕打ちだと思った。ならばいっそ魔物に襲われた時に見殺しにしてくれた方が気持ちよく終われたのにとクロノス様を涙目で睨みつける。
「そんな顔しても愛らしいだけだよジェニー。……いつの日だったか、ジェニーは言っただろう。私が人間ならばよかったと」
そんなことを言った覚えは無かった。神様であるクロノス様を否定した事など……
「……まさか、夢の中のあれでしょうか」
そういえば、夢の中に出てきたクロノス様がやけに後ろ向きだったことがあった。
私は、その夢の中でだけ平和な日常と「人間のクロノス様」との普通の恋愛を思い描いて……そう返事をした。
解答は無かった。でもクロノス様の淡い微笑みは――いつだって肯定だった。
「心配せずとも、我々は確実に再会できる。全知全能の神ゼウスにお願いしたからね。だから、こうやって……私を消して欲しいんだ」
クロノス様が私の両手を掴み、自らの首に当てがった。まるで私が聖女の力で自害を試みた時のように。
「私の力を全て送り込むから、ジェニーは聖女の力で私の生を全力で巻き戻して欲しい」
「……私に殺させようなんて、あまりに残酷です。あの夢の中での発言は撤回させてください、こんな展開は絶対に嫌です!」
せっかく再会できた愛する人を殺せだなんて、信じられない。こんな展開信じたくない。現実じゃなく夢だって、誰か言ってほしい。
……しかしこれは現実なのである。
「こうすることによって2人の間に縁ができ、私が生まれ変わった後に再び巡り会うことができる。それに、神は自害できぬ。ただの人間にも殺せぬ。だからこうするのが一番良い方法なんだ、頼む」
そんな懇願されても……無理なものは無理だ。私には出来ない。
懸命に首を横に振るが、クロノス様が考え直してくれる事は無かった。「ジェニーが決心してくれるまで、ここでこうやって待つから」と……私の手を掴み自身の首に当てたまま長期戦を挑んでくる。
「私がこのまま2人で暮らしたいと言っているのに? そんな事をなさるならクロノス様の事、嫌いになります……なんて言っても?」
「……それは困るな。しかしジェニーが人間である以上、永久に神の空間で囲い続けるのは、いつか無理が生じる。ならば私はジェニーと同じ人間という立場で、ジェニーと同じ時を歩みたい。私の我が儘なのは重々理解しているが、どうか聞き入れてもらえないだろうか」
その言葉の後一瞬だけ間を置いて、クロノス様はもう一言付け足した。
「1人遺されて、また何百年も君を探し続け絶望するのは、もう嫌なんだ」
絶対に同意しないと心に決めていたのに、揺らいだ。私の為を装っていても、これがクロノス様の本心なのだと分かってしまったから。
私が転生するまでの700年間も、呪文を見つけ呼んでくれるまで待ち続け見守るしかなかった間も。私に嫌われたのではないかと疑いながらも時空の歪みに囚われた私を助けてようと尽くしてくれた間も。
……クロノス様はずっと1人で、耐え難い孤独を抱えて生きてきたんだ。
私は、長い繰り返しの輪廻の中、失意で何もかも諦めてしまいたかった時の気持ちを思い出した。
私の場合はいつか来るであろう終わりを期待出来たし、先に待ち受ける明るい未来を信じて行動出来た時期もあった。
対して神様であり今後も悠久の時を生きるクロノス様には……これしか前に進む手段が無いのかもしれない。
神様とて、苦しまぬ訳ではないのだ。
私は、愛する人を苦しめてまで、今ある幸せにしがみつくの?
「幼いジェニーにこんな事を頼むのは酷だと分かっている。それでも……頼む。君を愛しすぎてしまった私を、どうか許して欲しい。いや、許さなくてもいいから、君と同じ時を過ごさせて欲しい。私を嫌いになってしまうと言うのなら、また好いてもらえるよう頑張るから」
「……私は幼くありませんよ。クロノス様がそう仰ったではないですか」
だって中身は40歳オーバー。神様から見れば赤子同然なのかもしれないが、人間としてはそこそこな年齢だ。
だから、大丈夫。
普通の人間よりも人生経験の長い私なら、きっとまた上手に前を向いて歩き出せる。
「今度は私が待つ番ですね」
覚悟を決めた。だからどうか、この頬に流れる涙だけは見逃して欲しい。上手く笑えていないのに気が付かないで欲しい。
……あぁ、王妃教育を頑張っていた頃の私なら、こんな時でも完璧な笑顔で対応できたのかな。
「……聞き入れてくれるのか?」
「そもそも、私の残りの時全てをクロノス様に差し上げるとお約束していましたから。またお会いできる日をいつまでもお待ちしております」
沢山助けて貰った分、今度は私が助ける番。
私の両手は変わらずクロノス様の首にかけられ彼の手により固定されたままだったが、一歩前に出てクロノス様の唇に触れるだけのキスを落とす。
少しだけ驚いたように金色の目が丸く見開かれたが、直ぐに申し訳なさそうな顔で「すまない」と謝罪された。
「このような時に聞くのはお礼のほうがいいですわ。謝罪は再会してから聞きます。その時に『遅くなってすまない』と言ってくださいな」
「……そうだな。ありがとうジェニー、必ず謝りに行くから待っていて」
その言葉が合図だった。ずっと掴まれていた両手に温かいを通り越して熱い程の力を感じる。これで一思いに……という事か。
太陽の光を反射する、鏡面より美しい白銀の髪も。
その太陽の光を集めて固めたような、金色の瞳も。
私に優しく触れる、繊細な指先も。
長い時間私を捉えて離さなかった、その美しくも逞しい肉体も。
ずっと私を見守り、優しい微笑みで寵愛をくださった。
私に愛を教えてくださった、大切な愛する人。
――それを、私が。
「ありがとうジェニファー。愛しているよ」
《108回目》の時にも聞いた、ガラスが割れるような音が響いた。キラキラ、キラキラ……太陽の光を反射して輝く破片が降り注ぐ。
先程まで両手の甲に感じていた熱いほどの力はもう無い。手のひら側に感じていた温もりも、もう……無かった。
お墓も無ければ骨も拾えない……私の愛した人の存在した証拠は何一つない。光の粒子となって、この世界に溶けてしまったから。
「……前に、進まなきゃ」
だってクロノス様は、前向きな私が好きだと言ってくれたから。愛する人の言葉は時に原動力となり、時に呪いのように自己を縛る。
でも。今日くらいはこの両手を握りしめて涙を流すくらい……許してくださいますよね? クロノス様。
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡
「沢山の辛い経験を乗り越えてのハッピーエンド。もうこれだけで十分ではないか。」
私も本当にそう思いながら書きました。
当初のプロットでは短編だったので、再会して終了のはずでした。しかしクロノス様が全然納得しなかったので、長編に大改造。題名がネタバレな物語ですので、題名通り再会します。最終クロノス様も納得なハッピーエンドになりますのでご安心下さい。
閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪