微かに感じた違和感はそのままに(5)
恥ずかしさでクロノス様の顔を直視出来ない。そんな私を見てクロノス様はフフッと声を漏らして笑う。
「まぁ……違わない、かな。でも時の神に向かって年齢の話なんてナンセンスだよ。ジェニーの体の時間を進めるのも止めるのも、私には容易い事だ。……自分の体を見てみるといい」
そう告げられ恐る恐る自分の体を見ると、5歳児にあるわけのない胸の膨らみに、スラリと長い足。明らかに成長した自分の体に呆然としてしまう。
「それで15歳くらいかな。ジェニーは何年も私と暮らして、自分の容姿が全く変わらない事に気がついていただろう?」
勿論気がついていたし、それについて問うた事だってある。……真相は教えてくれなかったが。
それでもせいぜい老いを止める程度のものだと思っていたので、まさか自由自在に年齢を操れるなんて予想外だ。
「それでも中身は5歳です!」
「中身の話をするならばジェニーはかなり歳をとっているはずだよ? 18歳で死んでそこから同じ1ヶ月間を107回、合計約9年分繰り返して、同じ期間分逆行する。そして今5歳な訳だから、私と2人で暮らした期間を除いても実質……」
……え、もしかして私ってミドルエイジですか?
クロノス様は最後まで仰らなかったが、改めて計算してみるとそういう事だ。見た目同様いつまでも若いつもりでいたが、内面は遥かに歳を取っているという衝撃の事実に目を背けたくなる。
「そう気にしなくていい。先程も言ったが、神にとっては年齢なんてどうでもいい概念だ。気の遠くなるような大昔から存在する私から見れば、5歳でも20歳でも80歳でも赤子同然だからな。なんならジェニーの精神年齢と同じだけの年齢まで体の時を進めても良いが?」
「……それは結構です。クロノス様から見て赤子でも、私からすれば……ちょっと立ち直れないので」
神であるクロノス様から見ればそうかもしれないが、私は人間なのでそこまで割り切って開き直ることは難しい。つい先程までは恥ずかしさから目を合わせることが出来なかったのに、今度はショックで直視出来ません!
「勿論、内面が何歳であろうとも体の年齢は見た目相応だから。子供も欲しければ産めるが……この話をするとジェニーは怒ってしまう気がするな。――理由を、今尋ねても?」
直視出来ず目線を逸らしている私の顔を覗き込むようにして、クロノス様が問うてくる。
今その話を蒸し返してくるか、と思ったが。もうこの際思っていることは全て伝えてしまおうと覚悟を決めた。これからきっと、うんと長い期間一緒に暮らすのだろうから……。
「私は……クロノス様との子供が欲しかったのに、他の男性との子供を勧められて悲しかったのです。愛するクロノス様以外と子を成す行為をするなんて、考えられなくて。同様に、クロノス様が他の神様と子供をお作りになるかもと思うと、嫉妬してしまったのですわ」
私の返答を聞いたクロノス様は数秒おいた後に重々しい息を漏らした。呆れられたのかと思ったが、片手で顔を覆い落胆しているようだ。
「全面的に私の発言が悪い。私だってジェニー以外と子を作るなんて嫌なのに、気持ちを汲み取れず申し訳ない発言をした。ジェニーが子供という存在自体を欲しがっているのかと勘違いした」
「いいえ、私が話し合いを拒絶したからです。もっと冷静になるべきでした」
クロノス様は話し合おうとしてくれていたのに。醜い嫉妬に駆られたのは私の方だ。
「クロノス様との血の繋がった家族が欲しかったのですが、不可能であれば仕方ありません。……たったそれだけの事を伝えなかったばっかりに、すれ違ってしまって」
クロノス様自身の顔を覆っていた手が、そのまま私の頬に伸びてくる。長くて整った指が頬を擦り、包み込むようにして添えられた。
「本当は……ジェニーが他の男との子を成すなんて、考えるだけで吐き気がするし、男への憎悪で狂いそうだ。それでも提案したのは、ジェニーの望みならばと思ったからで」
「では、もう子供の話は結論が出ましたね」
だって、お互いに、お互いとの間の子しか有り得なかったのだから。
しかし返事は無く、クロノス様はただ少しばかりの微笑みを携えて、私を見つめる。頬に添えられた手もそのままだ。
「――クロノス様?」
僅かに感じた違和感を誤魔化すように、クロノス様は唇同士を触れ合わす。久しぶりに感じる優しさは徐々に熱を持ち、お互いの境界線すら分からなくなる程に溶け合う。解放されていたはずの身体は、いつの間にかベッドに縫い付けられていた。
「愛してる。どれだけの時を重ねても、私にはジェニーだけだ。……馬鹿な私を許してくれるか?」
返事の代わりに微笑む。しなやかで美しい指が這う私の体は、18歳のあの頃と同じだった。
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