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もう一度初めから(2)

 お父様に許可を取った翌々日。護衛と侍女を1人ずつ連れた私は、馬車で石碑のある公園へと向かった。まずは石碑をよく観察しようと、スケッチの道具と侍女は馬車に残したままにして、護衛と2人で馬車を降りる。相変わらず不思議な空気を纏う石碑は、表現し難いが……なんとなく懐かしい感じがした。

 

「クロノス様」


 勿論返事は無い。クロノス様は私が幼い頃から見守っていたとおっしゃっていたが、何歳頃からの話なのだろうか?  


 そっと石碑に触れ、瞑想するように瞳を閉じる。じんわりと体の芯が暖かくなってきて、聖女の力を使っていた時に近い感覚を得られた。そして期待を込めてクロノス様を呼ぶための呪文を唱えてみるが……何も起こらない。


「やっぱりダメなのですね、クロノス様……」

 

 奇跡を信じて訪れてみたが、結局無駄だったようだ。「聖女として目覚める前にクロノス様を呼び、都合よく魔物を蹴散らしてもらえるよう約束を取り付けよう」作戦は失敗。ならば、本命の「バートン様との婚約が決まる前に、他のお方との婚約を決めてしまおう」作戦に早急に移ろう。幸い聖女となる魔物の大規模襲撃の日までの猶予は3年もある。お父様の交渉力に期待して、ひとまず今日は大人しく石碑をスケッチして帰ろう。


「課題の絵を描く前に少し座りたいの。あそこのベンチに座ってもいいかしら?」


 そばにいる護衛に許可を取り、少し離れた場所にあるベンチに座った。深く息を吸って、吐く。

 ――そうだ。懐かしいと感じたのは、この石碑の周りの空気が、クロノス様と過ごしたあの空間と似ているからだ。大好きだった人の欠片を見つけた気がして、自朝するように笑った。


「ねぇ、少しお話してもいい? ……私ね、結婚するなら私を愛してくださる方がいいのだけど、それって高望みしすぎなのかしら」


 私の斜め後ろで立って周囲を警戒している護衛に話しかける。普段は彼らの仕事の邪魔をしてはならないので無闇に話しかけたりはしないのだが、近いうちにお父様が決めてくるであろう私の婚約話の事を考えると、心が落ち着かなかった。


「い、いえ。……お嬢様は、美しく我慢強いお方です。そんなお嬢様を愛さずにいられる男がいるでしょか? お相手が誰であったとしても、お嬢様は愛されて幸せになれます」

「ありがとう。……お世辞であったとしても嬉しいわ」


 私はバートン様には愛して貰えなかった。……同じように、今から婚約するであろう『誰か』にも煙たがられてしまうのではないだろうか? 同じように、悲しい思いをするだけなのではないだろうか?


「お世辞ではございません。お嬢様がそのお方を愛せば、同じように愛されるはずですよ」


 その言葉を聞いて、私の思考はピタリと止まる。

 ……私はクロノス様を忘れて、今から婚約するであろう『誰か』を愛せるのだろうか。 

 

 そんな事を考えているうちに、突然周囲が騒がしくなってきた。どこからか叫び声や悲鳴が聞こえてくる。


「お嬢様、何か起こったようです。馬車で直ちに帰宅いたしましょう」


 護衛の言葉に頷いて慌てて立ち上がり、馬車の方へ早足で歩く。そうしている間にも混乱は輪をかけて大きくなっていき、この公園内にも人々が集まって来た。その中には怪我をしている人もいて、足を止め話しかける。


「もしよろしければこちらのハンカチ使って下さい。何が起こったのですか?」


 怪我をした中年女性にハンカチを差し出すと、悪いねぇと言いながら受け取り周囲の状況を教えてくれた。どうやら城門を破って何体もの魔物が侵入し、次々と人を襲っているらしい。

 私が聖女として王国を守っていた時期には結界を張っていたので魔物の侵入を自動的に防いでいたが、それまでは王国の兵士が物理的に魔物と戦い侵入を防いでいた為、度々こういう事があった。

 逃げ惑う人や、家の中に閉じこもり鍵をかける人。大急ぎで襲撃の準備をする城下町に配備された兵達。酷い状況にならなければ良いのだがと心配しつつ、詳細を教えてくれた中年女性にお礼を述べた。


「あんた良いとこのお嬢ちゃんだろ? 早く逃、」


 女性の声はそこで途切れた。一瞬にして目の前の景色が残酷な色に染まり、私が渡したハンカチも同色に成り果てた。その女性以外にも何人もの人が血を流し、地面に崩れていく。咄嗟に手を差し伸べて聖女の力を使い癒そうとするが……そうだ。今の私は聖女ではないのだった。何も出来ない、ただの5歳の子供でしかない。

 護衛が咄嗟に私を抱き上げ、馬車へと向かって走り出す。彼の腕の中から空を見上げると夥しい数の飛行型の魔物が空を巡回しており、どうやらその攻撃を受けたようだ。

 

「空の魔物だ!」

「逃げろ――ッ」


 公園に集まって来ていた人々が一目散に逃げていく。物理的に兵士が魔物を倒すことで防衛している為どうしても空からの攻撃には弱い事を、皆理解しているのだ。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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