ずっとお慕いしております
《2回目》の人生……ついに初めて輪廻の中に入った時がやってきた。私の体は混乱から部屋を飛び出して使用人達に意味不明な質問をしまくる。混乱して当然だ、処刑されたのに生きて歩いているのだから。
「お前、またヘレンに嫌がらせをしたそうではないか!」
廊下をツカツカと歩いてくるバートン様。私は怒りと悲しみと失望から、勝手に動く事にも慣れてしまった体でバートン様の胸倉に掴みかかった!
「私は何もしていないのに、よくも……!」
今度の人生を振り返るようにして経験し戻ってきたが、やっぱり私は正しかった。私は何もしていない。ただ、ヘレン・オリバーにバートン様を横取りされた上に聖女という身分すら剥奪され殺された可哀想な侯爵令嬢だ。
「どうせその勢いでヘレンにも掴みかかっているんだろうが! いい加減にしろ、お前の顔なんて見たくもない」
私の令嬢らしくない振る舞いに対して、王子らしくない対応で返してくるバートン様。私の手は力ずくで剥がされ、壁に向かって投げ捨てるように押し出される。
「私は……ずっとお慕いしております!」
押し出された衝撃で挫いた足を庇いながら、バートン様を睨みつける。本来この言葉はバートン様に向けた物だった。今の私の心には……彼が占める場所なんて1ミリも無い。それでも口が勝手に動く。
「私、は……」
言葉に詰まるバートン様。そこに、本来城内には入れないはずのヘレンがスキップしながらやってくる。
「バートン様ぁ〜!」
「ヘレン! 何故城内に!?」
驚きの表情をしたバートン様の腕に纏わり付くヘレン。バートン様が取る態度は先程とは対照的で、その手が振り払われる事はない。
「えへへぇ、見張りの兵達にお願いしたら入れてくれるようになりましたぁ〜。これでいつでもお会いできますね」
何回聞いても吐き気がする甘ったるい声。……体を使って兵達を片っ端から口説き落として得た権限なのだと、馬鹿なバートン様は知らない。
「一体どうやって……」
「それは〜、ヘレンがバートン様をだーい好きな気持ちをみんなが分かってくれたからですぅ」
婚約者である私に見せつけるように、自らの豊満な胸をバートン様の腕に押し当てるヘレン。
「バートン様ぁ、せっかく城内に入れるようになったのだから、案内してもらえませんかぁ?」
「あ、ああ……そうだな。まずは中庭から案内しようか」
恋人のように指を絡め合って、2人はその場を立ち去る。その際にヘレンが自慢げな顔でこちらを見てきたが……今の私の気持ちは「ご自由にどうぞ」だった。
その後一ヶ月間、足を挫いたのもあり基本部屋で大人しくしていたにも関わらず……「毎日ヘレンに嫌がらせをしている」と責められ、私は刑に処される。
もう何回目かも数えられない程に、見慣れてしまった処刑台。この《2回目》が終わったら、私はどうなるのだろう?
前に進んでいる時はいくらでも続きを作り出せたが、今は逆行。この次は……《1回目》、初めて私が殺された、輪廻関係なしの生があるだけだ。
あまりにも長かった。辛かった。それも、やっとこれで……終わるのかな。そう思えば口から乾いた笑い声が出た。
「ははは……」
力なく処刑台に首を掛けられた状態で笑い声を上げた為、近くに居た兵達を怯えさせる。
これで、刃が空気を裂きながら落ちてくる音を聞くのも最後になりますように。そう思いながら瞼を下ろす。
――クロノス様。
「心から、お慕い申し上げておりました」