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心変わりされたのだとしても

ジェニファーをどん底まで突き落としていますが、最後はハッピーエンドで書き終えてます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

 ――ああ、私はまた夢を見ているのね。


 直感でそう分かった。最近はよく夢を見るし、夢の中だけは自由に動ける。

 目の前にいるのは、夢の中だけで会える愛する人。

 また会いたい、もう一度会いたい、目が覚めないで、と思うのだけど……目が覚めてからの絶望感を考えれば、夢ですら会えない方がマシなのかもしれない。


「ジェニー、それほどまでに辛いのか?」


 夢の中。目に涙を溜めた私を抱きしめるクロノス様。


「クロノス様、お願いです。もっと強く抱いてください」


 そうすれば現実世界に帰らなくてもいいかもしれないから。このまま夢の中にいたい。

 そんな気持ちで、彼の背に回した腕の力を強めた。


「……私が人間だったらよかったか?」


 今日の夢のクロノス様はなんとなく違和感があった。いつも有無を言わせない愛情を私に与えてくれるクロノス様が、そこはかとなく後ろ向きに思えた。


「クロノス様が人間でございますか……?」


 もしもクロノス様が人間だったなら。私は聖女の力を授からず、ただの侯爵令嬢であっただろう。そうすればヴェストリス王国の第一王子であるバートン様とは婚約せずに済んだし、処刑もされなかった。そしてその中でクロノス様と巡り合ってただの人間同士で恋をして結ばれることができたなら。……きっと幸せだっただろう。


「ジェニーは私が人間だったなら、幸せだったか?」

「そうですね。このような辛い思いをせずに済んだという意味では、幸せだったかもしれません」


 クロノス様の返事は無かったし、そこで目が覚めてしまった。……しょうがない。これは現実逃避ばかり考えている私の夢なのだから。



  ◇◇◇



 《39回目》の人生で私は初めて禁書を発見する。藁をも掴む思いで訪れた図書館の奥にある資料室。持ち出し不可の貴重な資料が並び立ち入る人は殆どない。そこで見つけたのは、一冊の分厚い書物。何故か吸い寄せられるようにしてその本を手に取った私は、古代語で書かれてあるのに「これに答えがある」と直感した。……これが禁書解読の始まりとなったのだ。


「でも、もうお別れね」


 随分と長い時間この本と向かい合ってきたが、それも今回で終わりなのだろう。だって、この次にあるはずの《38回目》と同じ人生では、この本にたどり着いていなかったのだから。


「さようなら……クロノス様」


 私とクロノス様を繋いでくれたこの本とももうお別れ。もう会えないのであろう大好きな人に別れの言葉を告げながら、私の体は勝手に本のページを捲る。



 ――悲しいのに、涙を出すだけの元気はもう無かった。






「……おい、最近どうした?」


 珍しくバートン様が優しく……いや、心配そうな顔で声をかけてくる。

 これは《31回目》……だったように思う。もはや数えるのも億劫だし、どうでも良くなってきた。先へ進めないのであれば2度とクロノス様にはお会いできない。その事実がどうしようもなく悲しくて、私は生きる意味すら分からず、ただ今までの輪廻を辿り帰っていくだけの存在と成り果てていた。


 確かこの時にはまだ禁書の存在にすらたどりついてもおらず、ただ漠然とくり返される一ヶ月間の人生、何度も迫り来る斬首の苦しみに狂いかけていた時期だった。当初と今で狂う理由は違うが、結果としては同じ事だ。


「一応お前は私の婚約者なんだ。そう覇気のない顔で城内を歩かれても困る」


 そう言いつつ出してきたのは、とびきり赤い林檎。


「ほら。お前林檎が好きだっただろう」

 

 婚約者として初めてお会いした時、バートン様は私に林檎をくれた。「赤色の髪だと聞いて持ってきた」と言った当時9歳のこの人は、父親である王に「馬鹿者、オールドローズだと言っただろう!」と怒られていたが……それでも私を歓迎してくれたかのようで嬉しかった。私を受け入れてくれるのだと……そのまま将来夫になるであろうこの人に恋をした。サラリとした金色の長めの前髪の下から覗く緑の瞳は真っ直ぐに私を見てくれて、この人の為に頑張ろうと思ったのだ。だから、「大丈夫、林檎が大好きなのです」と大して林檎好きでもないのに答えた私。

 ……バートン様の脳内の私は、8歳のまま止まっているのね。


「ありがとうございます……」


 うっすら微笑んで林檎を受け取る私。以前の《31回目》の私は、この林檎をどのような気持ちで受け取ったのだったか……? 記憶を手繰り寄せてみると、この頃はまだバートン様のことを諦めていなかったような気がする。『やっぱりこの人は私の事をまた受け入れてくれるのでは?』と期待してしまったような気がする。


 でも繰り返してきたからこそ、今の私はよく知っている。この人は私への興味を急速に失い……ヘレンに惹かれていった。これだって、私が食事も碌にせずに魂の抜けたような表情をしていた事から、第一王子に擦り寄るヘレンが誹謗の的になり、それを確かめにバートン様が来ただけだったのに。


 ……私、馬鹿だった。


 またクロノス様が助けてくれるんじゃないかって……またお会いできたら愛してもらえるんじゃないかって、心のどこかで期待していたけど、人間は心変わりする生き物だ。神は人間ではないが、クロノス様はあんなに人間らしかった。同じように心変わりくらいするだろう。クロノス様に捨てられたから、あの敷地外に投げ出された可能性だってある。

 ……時々仕事だと言って出かけて行く先は、他の女性の元だったかもしれない。人間とは子が成せないから、と……他の神様とそういう事をなさっていたかもしれない。だから私にも『別の人』を勧めたのかもしれない。後ろから押されたような感じがしたのも、もしかするとクロノス様からの「出ていけ」との合図だったのかも。



 ――期待するだけ無駄な事は、このバートン様への恋の時に、嫌という程思い知った。



 お礼を告げた私に対し返事もせずに立ち去る背中に向かって、勝手に口が動いて呟く。


「それでも、私は好きです……」


 あの時は、『バートン様』に対しての言葉だった。今は違う。



 ――クロノス様。それでも、私は貴方がまだ好きで忘れられず……愛しているのです。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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