本物の聖女は神に愛され、自害することは許されない(1)
その後も《105回目》と同じ、《104回目》と同じ……と、どこか見覚えのある人生が繰り返された。基本的に自由に体は動かせるのだが、キーとなる重要なシーンでは体が勝手に動く。どう頑張っても大筋を変えることは出来ない。今まで自分が必死にもがいてきた生を逆戻しされているようで気持ちが悪かった。
やっと幸せを掴んだかのように思えた《108回目》の人生がどんどんと遠くなっているように感じた。クロノス様の存在もどこか遠くなっていくような気がして……あの幸せな日々は私が作り出した幻だったのではないかとさえ思えてしまう。
今までの人生と違った行動を取らなくてはと必死になったが、無駄だと言わんばかりの過去へ向かっての繰り返しに徐々に私は疲れていき……心の大部分を絶望が占めるようになってきていた。
◇◇◇
自分の歩んだ何回もの『繰り返しの一ヶ月間』を逆行するという奇妙極まりない現象を繰り返し繰り返して……今回は《60回目》と同じ事が起こるはずの人生。本来ここでやっと私は、禁書を少し解読して聖女の秘密を知る。
聖女とは神に愛され力を分け与えられた人間のこと。この力を持つ者は身分に関係なく崇められ、その時の王族の伴侶となり国を守る。
……しかし実態は、身分の低い愛人を都合よく伴侶にするためだけに利用されてきた、お飾りの身分。後からクロノス様に聞いた所によれば、私のように本当にこの力をクロノス様から分け与えられた聖女は実に700年ぶりだそうだ。
そしてこの力の正体は、時を操る力。
対象の時を自由に操作し、例えば怪我の治療であれば対象の傷を負う前に時を戻すことで治す。城下町を包むように結界の壁を貼ることで、触れた魔物の時を急加速させ死に至らせる。……仕組みも知らず力を使っていた私は、この禁書の内容に驚愕したことを覚えている。時を操っている感覚なんて皆無だったので、本当なのかと怪しんだものだ。しかしクロノス様自身が、「自分は時を操る神だから」と仰るのだから信じるしかない。
『だから金属の鎖は破壊できなかったのですね。劣化し難い素材ですもの』
『そうだな。私本人であれば金属も容易く壊すが、私の力のほんの一部を分け与えられた聖女では難しかっただろう。特に腕力の無い令嬢では、少々劣化させて引き千切れというのも難しいだろうし』
いつの日だったか、禁書で学んだ事の答え合わせをクロノス様と行った時の会話が思い出される。懐かしさに浸りたいのに、この禁書の解読はキーとなるためか、知っているはずの事を調べ学ぶ行動をやめられない。
思考では別の事を考えられるが、体はきっちりと《60回目》の人生に沿った行動をする。余りにもそれが苦痛だった。毎晩王妃教育や聖女の職務で疲れた体に鞭打って、『脳内では理解している』禁書の解読を進めていく。
……ある意味、前を向いて歩いて行動してこれた《108回目》以前の方が、今の逆行より遥かにマシだった。
「今日はやけに疲れたな……」
嫌味を並べてくるヘレンの相手に魔物対策。今日は色々な出来事が重なって疲れてしまったせいか、体は禁書のページを捲っているのに意識が朦朧としてしまう。机で寝てしまうなんてはしたない。
しかし体が机の前から動いてくれないので、そろそろ意識が限界に近づいていた。
――しょうが無い。少しくらいなら、寝てもいいよね?
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