孤児転生その1
7 孤児転生-1
バキッ
「……」
音の発生源を見ると、真っ二つに割れた箒。手で持つ所の根本部分からポッキリと折れている。
「あぁー!クレアがホウキ壊したぁぁー」
「あらまぁ、またなの?」
「……」
ごめんなさい、と言わなければ。
また壊れる寸前の物へトドメを刺しました、と自白しなければ。
でも、何だろう。寒気がする。
熱が出ている訳でもなく、これから体調が悪くなりそうな類いの寒気でもなく。
これは、そう。
自分の都合の悪い展開になっているような、何か。
私の今世の目標は、自由に生きるだ。
それが出来なさそうな、実現不可能な気配が……いやこれは多分体調の変化とかそっちだ。
「クレア、貴女また壊したの」
「……普通に掃除していただけです」
まずは。
この、全て悪い事が起きたら私のせいにする見習いシスターを黙らせよう。
この女は度々、使い古してもう壊れる寸前な道具を渡してくる。傷んでいる部分の野菜や肉を私の食事にだけ混ぜてくる。私の寝床にネズミがいたからって水浸しにしたり、足りなかったからという理由で私の布団だけを雑巾にしたりする。掃除後にわざとゴミ箱や植木鉢を倒して私の担当箇所の掃除場所を掃除前より汚くする。体格の良い子や外面の良い子などのお気に入りの子達を贔屓にして、他の弱い子を虐めようとする。
他に大人がいなかったら、自分は暴力を受けていたであろうレベルだ。
他にも細々としたことはあるが、この女はただの見習いシスター。
私が滞在している孤児院の管理責任者であるシスターがいない時の代理の責任者…ではない。神官が、その役割なのだが、今は村の会議に出ていて不在。
その1〜2時間だけの代理の代理である。
所がこの女は何を勘違いしているのか、自分がここのトップであるという振る舞いをしているのだ。
「全く……これだから金髪の孤児なんて」
孤児が嫌なら孤児院なんて来るなバカ。と言いたいが、この女は私が金髪である事が嫌いなのだろう。
というのもこの世界での金髪とは、高貴な血筋を意味する……訳でもない。他の孤児でも金髪はいる。ただ、ここの孤児院に金髪は私とこの女だけ。他にもいたはずだけど、いつの間にかいなくなっていた。
恐らくこの女が追い出したか、たまたまこの界隈に金髪が少ないか。
では何故、金髪の孤児である私を憎むかと言うと。
「"真なる聖女"は私なのよ」
こういう事だ。
……"真なる聖女"とは何か。まずはこの説明を、
の前に。
私の髪の毛を掴もうとしてきた腕を、この女の後ろにいた女性が止めた。
「……まだそのような事を言っているのですか、シスターベロニカ」
「ナ、ナタリエ様!?まだ王都にいる筈では!?」
「…そもそも王都に行ってなどおりません。貴女の行為が度が過ぎていると、報告がありまして」
ちなみに、この報告とやらは私ではない。なので私を睨むのはお門違いである。
「報告してきたのは神官のブライトンです。クレアではないので睨むのはお門違いですし、貴女に睨まれてもクレアはびくともしないですよ」
シスターナタリエと同じ事思ったし、ちょっとそれ言っちゃだめなやつではと思ったけど確かにその通りなので、子どもらしく微笑む。
「〜ッ何故ですか!?真なる聖女は私なの!私の金髪こそがあの方が探し求めていたモノなのに!ナタリエ様も綺麗な髪だと褒めてくれたじゃないですか!?」
「確かに初日に綺麗な髪だと告げましたが…」
シスターナタリエのあの困った感じを見る限り、皮肉だったのではないかと。
……そういえば、初日のこの女の装い派手過ぎだったな?中は修道服ではあったけど宝石やきめ細やかなレースがついた外套羽織ってたし、頭巾…ウィンプル?だっけ?それにも金銀の飾りがしてあって全く髪の毛隠してなくて、シスターナタリエとブライトン神官が数秒固まっていた。
その時の事を、自分に見惚れているとこの女は勘違いしてた。シスターナタリエはとうとう最後まで訂正出来なかったね。
ん?私ら子供たち?
遠巻きにしてたよ?
だってそうじゃん。自分は貴族で、いつか王子が迎えに来るからそれまでの間ここにいるだけだって、初日に宣言されたんだよ?
"やべぇ女"認定したよね。関わってはいけない大人リスト第一位だよ。
今この女に擦り寄ってる子たちは、この女が来た後に不自然に孤児院に来た子達だし。
それにしても……この箒どうしよう。