弟視点その4
6 姉という人(弟視点)-4
「うへぇ」
「……お前は外で待ってろ……ハルカ・ラングウェイ様、詳しい話は尋問室で」
「いやっ、触らないで!!ジーク様っ、助けて!わたしはただの被害者なのっ!」
ジークフリード殿は縋り付いてきたピンク女の手を咄嗟に払った。
殿下はずっと机を睨んでいる。
ヨシュア殿は顔を覆ったまま微動だにしない。
エリオット殿は顔を上に向けて放心している。
誰も、ピンク女を庇わない。
ざまぁみろ。
恐らく、あの女が死刑になった原因の王族暗殺未遂とやらもこの女が一枚噛んでいる筈だ。じゃないと、あの女の処刑までの速さに説明がつかない。
姉上も次々とあの女が関わった証拠とやらが出てきた時、目を白黒させていた。
まぁ、そちらの証拠探しは、協力者に丸投げしよう。
それにしても疲れた……
姉上の弔いも出来ていない。
早く姉上に会いたい。
でも、姉上に先手を打たれている。
『もし…私が死んでも、後は追わないで。貴方には後片付けを頼みたいの。私の死後にしか出来ないから、それを貴方にお願いしたいの。全て終わって、それでも死にたいのなら死ねばいいわ。中途半端で終わらせて、こっち来たら嫌いになるからね』
――嗚呼、貴女というひとは、なんて残酷なんだ。
そう言われてしまえば、僕はそうせざるを得ないから。
この世界で誰よりも愛情を注いでくれた姉上を僕もまた愛しているから。
姉上は、日本人だった前世の記憶を持つ僕より、先のことを見通していた気がするのだ。
「それでは、失礼致します」
「離せぇ!!ジーク様ぁ、殿下ぁ助け」バタン
ジタバタと暴れるピンク女を縄で拘束し、担いで去ったまともな騎士。
部屋には静寂が訪れる。
……こいつら、帰んないかな?
何故まだここにいるんだろうか。
僕が胡乱げに彼らを見ていると、ヨシュア殿が僕に問うてきた。
「ルーク殿……何故リリアは命の誓約を知っていたんだ…?」
「……これは姉上の推測ですが、僕達の生家では何代か前に金貸しをやっていたそうです。その中に教会の司教がいて、教会の物を担保に金を貸していたのではないかと…あの女が蔵の奥深くで命の誓約に関する書物を発見し、不完全な誓約が成された後姉上が借用書リストをその近くで見つけたそうです…全て協力者の方へ渡していますので後で見せてもらうように言っておきますが」
「…頼む。だが、それでも、司教にまでなった人が金貸しなんて」
「その辺の事情は知りませんが、姉上は借用書リストの中でいくつか違和感のある名前をピックアップして、それがアナグラムまたは外国語訳である事に気づきました。そして図書館で貴族年鑑や当時の新聞などで調べた結果、その内の一人が司教であることを知ったと僕に教えてくれました。その司教はどうやら当時寄付金を誤魔化して懐に入れていたそうですよ。」
「何故、ララは、君の姉はその時点で周りの大人に言わなかった…そうすれば未来は違ったかもしれないのに!」
ドンと机を叩く殿下。
……一瞬不穏な考えが頭をよぎったが、今はそれよりも。
「誰が僕達を助けてくれると?聖女と祀りあげられる前から僕達に関心がなかった両親?僕達に構うと長女の機嫌が悪くなるからと最低限の世話しかしなかった使用人?僕達の格好が見窄らしいと見下し虐めるしか能のない親戚?
……ふざけるなよ、僕は跡取りだったからまだマシな環境だった!でも姉上は!!姉上は、それを何年も笑ってやり過ごしていた!!あの女が聖女になって教会預かりになってようやく僕達は息がつけると思った!!なのに!命の誓約のせいで!姉上は……っ」
初めて聞く話ばかりなのと、冷静沈着な性格の僕が声を荒げた事にジークフリード殿達は驚いたようだ。
殿下は泣きそうな顔でまた強く拳を握る。
「…っ、すまないっ」
「……っいえ、僕こそ取り乱して申し訳ありません」
目を瞑り、姉上の笑顔を思い出す。まだ、僕にはやるべき事が残っている。落ち着け。
大きく深呼吸してから、殿下達に向けて僕は告げた。
「もう、疑問は解けましたよね?なら帰ってくださいませんか?僕も姉上が残してくれた片付けを手伝わないといけないので」
「「「「片付け???」」」」
……あっ
ひとまずここまで。