弟視点その3
5 姉という人(弟視点)-3
「ひ、酷いわっ……わたし、そんな事したことないもんっ!」
「姉上は命の誓約があるので、あの女が捕まっても死刑にならないように、幽閉の方へと働きかけていました」
両手で顔を覆い泣き真似をするピンク女に群がるハーレムメンバーは、違う話を始める僕へ睨みつける視線から懐疑的な視線へと変わった。
「あの女が王族の暗殺未遂なんて愚かなことをするまでは幽閉で決まりだろうと、僕も協力者も確信していましたよ……なんせ、婚約破棄ゲームで加害者となった女生徒数名の名前と証拠を全て揃えていたのですから」
「ぇ」
「聖女としてあるまじき犯罪。とは言え、死刑になるほどではないので罰金と生涯監獄塔に幽閉だろう……と。そして他の女生徒も勘当や賠償金、タチの悪い女生徒ではその生家の取り潰しも視野に入れていると協力者の方は仰っていたんですよ」
証拠がある、と言った途端、泣き真似をやめて青ざめるピンク女。
その様子を見て、戸惑うハーレムメンバー。
「協力者については他言無用と僕との間で誓約を交わしているので言えませんが、姉上の方は亡くなった時点で全て無効になったので何もかも言えるようになりましたよ。あの女は、自分の死後でも有効な誓約は姉上にはかけていませんでしたので。なので、今頃協力者が貴族会議に悪質なゲームの参加者のリストを持ち込んでいるでしょうね…勿論、そのリストの先頭に貴女の名前が載っている事も承知の上で、ね。」
「…っそ、そんなの出鱈目よ!捏造でしょう!?わたしは!」
「姉上の誓約が全て切れた中、今なら証人もわんさか出るでしょうね…婚約破棄ゲームは元々貴女が考案したものですし、貴女の被害者の方が多いでしょうから。あぁ、何故ここで姉上の誓約が出てくるかと言うと、余りにも酷いケースのみでしたが貴女の被害者も助けていたんですよ……本当に姉上は心優しいです。あの女の尻拭いもやって、更に自称友人の方の被害者も秘密裏に助けてしまうなんて…」
姉上の優しい朗らかな笑顔を思い浮かべ、ようやく息がつけるように感じた。
……姉上は偉大だ。こうなった時の事まで想定して僕の事まで気遣ってくれるのだから。
「ち、違う…!わたしは!」
トントン ガチャッ
「失礼します!こちらにハルカ・ラングウェイがいると情報が入りましたが……そちらの女性がそうでしょうか?」
まだまだ言い訳しそうなピンク女の台詞を遮り、王宮の騎士が二人入室してきた。
僕まだ入室許可してないけど?
え、こういうのが普通なの??
ノックして、部屋の中の人がどうぞって言って、それで入るんじゃないの??僕そう教わったけど??
騎士のいきなりの入室に戸惑う僕と殿下達を置いて、騎士は溌剌と発言する。
「ハルカ・ラングウェイ、幾つもの貴族から陳情と賠償金要請が届いています。詳しい話を聞きたいので、尋問室hゴチンッ」
「……大変失礼致しました。貴族会議で提出された数々の婚約破棄騒動の発案者の所にハルカ・ラングウェイ様のお名前があった事。また、ハルカ・ラングウェイ様に誑かされて婚約破棄をしたと複数の貴族のご子息が貴族会議の後の聴取にて発言しましたので、その是非を問いにここへ訪れました。ご同行をお願い致します」
勢いのある方の騎士の頭を殴り、もう一人が丁寧に説明してくれた。
もちろん、入室許可が降りていないのに入室してしまい申し訳ないと僕にまで謝ってくれた。
あ、良かった。こっちはまともな騎士だ。
「…は、ハルカ……?本当、なのか…?本当にお前が」
ショックで震える殿下とジークフリード殿。
まぁ、見た目は良いし愛想も良い。天真爛漫を装う演技もなかなかだったが……それだけだ。あの女の方が小賢しいからやりにくいと姉上が評していたのを思い出す。
「姉上曰く、『ハルカ様の後処理の方が姉様より下手で証拠固めが終わってないのにいつバレて台無しになるかとヒヤヒヤするわ』とのことです。それと、殿下達にも言っていましたよ。何で悪い奴が一人だけだと決めつけるのかって。心底不思議そうに」
「確かにそうですね!我々が悪党を逮捕する時似たような事件がないか必ず確認して模倣犯を探しますからね!!「ゴッ」いてっ」
「度々失礼致しました…お前は外で待ってろっ」
丁寧な方の騎士が、もう一人を部屋の外へ追い出す。
大変そう。
そして殴られた方はよく不敬罪で捕まらないな?
……あ、もしかして剣聖候補筆頭って噂の男か?確か陛下がお忍びの際ゴロツキと喧嘩していた彼を見抜いたとか何とか。
……いや、それでも不敬罪くらい分かるだろう……?
だが殿下をはじめハーレムメンバーは誰一人不敬だと騒がないので、特別扱いでもされているのか…諦められているのか。
「……ゎ、わたしが考えたわけじゃないのっ!!リリアが!!ララの最初の婚約者を寝とったって自慢をしてくるから!!!」
「「「「!?」」」」
「はぁ!?!?」
姉上何それ初耳なんですが!?!?
勢いよく椅子を倒しながら立ち上がった僕は、姉上の可愛らしくもとぼけた笑顔を思い出した。
後書きで主人公の名前間違えるというミス。