前世 その2
2 前世-2
「これより、聖女リリア・フロックハートの処刑を行う!」
ワァァァァァ
「リリア・フロックハートは聖女でありながら、数々の婚約者のいる異性を誑かし、聖女の義務である慰問や祭典を蔑ろにした!」
ブゥゥゥゥ
「また!未来ある王族の暗殺未遂を企てた!これはいかに聖女といえど許されざる行為である!」
ワァァァァァ
――ほら、こうなった。
まぁ、あの人死んだら全てが明らかになるから別に良いんだけどさ。
何がムカつくって……
「ふん、お前の弟に感謝するんだな。あの姉は全てお前のせいにしていたが弟が反論し、我々が調査した結果、お前はただの姉の付属品だったという事実しかなかったからな」
訳知り顔でご高説垂れる隣の男の存在、だよね。
確かハルカ様が狙っていたジークフリード様だった気がする……あれ、姉様が狙っていた第一王子殿下、だっけ?二人とも従兄弟だからか似てるんだよねぇ。興味ないから、見分けがつかない。
……あ、こいつ殿下の方だわ。泣き黒子がチャーミングとかいう令嬢達の評価思い出した。
周りからしたら、似てはいるけどよく見れば別人だと分かる、なんて言うけどさ……興味ない人、そんなにジロジロ見なくない?
全員が全員てめぇに興味なんてねぇよって思った。こういう変にプライド高い人達って、「女?全員俺らの事好きだろ?」とか思っちゃう奴でしょ?(偏見)
何も答えない私を見て気分が良くなったのか、更に囀る隣の男。
「本当ならお前も姉と一緒に、ハルカを虐めた罪で断頭台行きなんだがな!心優しいハルカは健気にお前ら姉妹を庇っていたというのに」
……その心優しいハルカって誰のこと?もしかして姉様と一緒に、婚約者のいる男にちょっかい掛けて婚約破棄までさせておいてこっぴどく振って高笑いしていた姉様の友人のハルカ様の事言ってる?
「お前の姉は結局俺の顔と将来の王妃という地位にしか興味なかった女だったが、まさか暗殺未遂までするような馬鹿女だとは思わなかったよ」
……いや、ハルカ様も多分貴方様の顔と地位にしか興味ないと思うよ。
ところで。
何故さっきから私が一言も言葉を発していないのかと言うと…
私もそろそろ死ぬからですっ☆イェイッ
鼓動がやばいくらいドコドコ言ってる。死が間近だからか、声が出ない。
……あーーーーーー、こうならない為に日夜頑張っていたのに!!!!!
あのクソ姉のせいで、私まで死ぬとかふざけんなよって思って頑張って姉がもたらす被害を小さくしていたのに!!!
見る目のない男どもが物事の表面だけ見て出しゃばったのと、クソ姉がハルカ様を見下しすぎたのと、あの性格になるまで放置していたクソ親のせいだ!!!弟連れて隣国に逃げるんだった!!!あ、誓約のせいで姉から離れられないんだった!!!
私が、(大っ嫌いすぎてむしろ関わりたくない)クソ姉に引っ付いて周りを牽制していたのは、クソ姉とハルカ様の悪趣味な婚約破棄ゲームの被害者を減らす為だったし、慰問先への寄付とかもフロックハート家が積極的にしていたのは
「聖女は癒しだけでなく金の寄付までしてくれる素晴らしい人だ」
って思わせるための作戦だったし、しかもそのお金の半分って私が秘密裏にバイトして稼いでいたお金だし…返せよ!結構な大金なんだぞ!?
じゃなくて。
私が心の底から関わりたくないと思っていた最大の要因は――
「ただいまより!処刑を行う!」
ワァァァァァ
「何か最後に残す言葉はあるか?」
「……わたくしを処刑するということは神が御認めになった事を覆すということ!!」
「あははは!!!貴様らに天罰が下るわ!!!死ね!死ね!!死ん」ザシュッ
「グフッ」
ワァァァァァ
「ふん、最後まで愚かな女だ」
殿下は姉の最期の慟哭を鼻で笑う。
嫌だなぁ。こんなのが最期に側にいるなんて。
弟に替えてくれないかなぁ……
「あくまで神が授けたのは聖魔法と魔力量だけだと言うのに……どうだ?お前の最愛の姉様が死んだ感想、は……!?おい!どうした!?」
隣の男がせいせいした顔つきで、わたしの方を見る。
感想をお求めだろうが、残念だったね。
姉が死んだ時点で私も死ぬんだよ
そういう誓約を幼い頃に姉に勝手にされたからね。
血を吐いて、崩れ落ちた私の周りに集まる殿下を始めとした関係者。ハルカ様の姿も見えたので、目の上の瘤だった姉の最期を内心で嘲笑いに来たんだろう。
私を抱き起こし大声で救護班を呼ぶ殿下を見て、直ぐに断頭台の方を見る。
断頭台の向こうに広がる青々とした空が、私の最期の記憶だ。