前世 その1
完結するか分からないけど頑張ってみたいと思います。
1 前世-1
今日も、私は走る。
家族のため、自分のため。
クソみたいな演技をするんだ。
「姉様ぁっ!」
「あら、ララじゃない。どうしたの?」
「姉様の姿が見えたので、走ってきちゃいました!……それで、姉様?こちらの方は?」
「あぁ、私の力を貸して欲しいそうなの」
「!」
姉様の腕に自分の両腕を絡ませる。大体、こうやれば大抵の人はそっと下がってくれるのだが、相手が相手だ。
「姉様の御力を頼るのは良いですけど、ちゃんと教会に許可はとってあるんですよね?第一王子サマ?」
「こらこら、我が国の王族にそんな口の聞き方しちゃダメよ、ララ」
「だってぇ、姉様との時間が減るじゃないですかぁ」
「ふふ、本当に私の事が好きなのねぇ」
「はいっ!ララは姉様の事が好きなのです!」
姉妹二人の世界。
そんな中に入れる勇気のあるやつがいたら、出てこい。
説教してやるから。心の中で。
「おやおや、僕は邪魔者のようだね…それじゃ今日は退散しようかな。それじゃあの話考えておいてね、リリア」
「殿下…はい……ご機嫌よう。さぁ、行きましょうララ」
姉様は私がいないと駄目な人だ。
いくら神から授かった聖魔法の使い手だろうと、魔力量が膨大で教会から認められた聖女だろうと。
姉様には私が必要なんだ。
だって姉様は――
「リリア〜」
「あら、ハルカじゃない。ご機嫌よう」
「やっほー…相変わらず妹ちゃんに引っ付かれてるねぇ」
「敬愛する姉様は私がお守りするのです!!」
「アハハwそっかそっか」
次に現れたのはピンク髪の伯爵家のご令嬢・ハルカ様だ。この女も姉様と私の時間を邪魔するやつだが、姉様の友人の為、多少の自慢をするだけで我慢している。
「それで?何か私に用事があったのでは?」
「あ!そうそう、今度の視察なんだけどさ、わたしもついて行く事になってね!ジーク様に誘われちゃったの〜」
「まあ、良かったわね。ならジーク様と一緒になるように働きかけてあげるわ」
姉様がそう言った瞬間、少し顔が強張ったハルカ様。
…姉様は気づいていないようだ。私が姉様を守らないと。
……ってちょっと待って。
「……姉様…視察、とは」
「あら、言ってなかったかしら?来月に、災害に見舞われた村があるでしょう?そこへ慰問に向かうことになったのよ」
「メンバーは!?」
「私と殿下とハルカとジークフリード様、それとヨシュア様とエリオット様、あとは護衛の方々がいますわね」
「そんな聞いてないですっ!私も行きますっ!!」
「でも貴女、来月は予定があるのじゃなくて?」
「……父様の用事なんてすっぽかして」
「ダメよ。まったく…お父様はそれはそれは楽しみにしているのよ?」
「…姉様と離れるの嫌です…」
思わず涙目になってしまう私を見て、姉様が困ったように笑って頭を撫でてくれた。ついでにハルカ様も可愛い〜って言いながら撫でてきた。友人じゃなかったらペイってするのに!
そう、来月。
私の婚約者との面談があるのだ。
なんでも今をときめく商会の跡取りだとか何とか父様は言っていたが、話半分しか私は聞いていなかった。だって興味ないもの。
それに私に婚約者なんていらないのに!!
私がうぐぐと葛藤していると、ハルカ様は次の予定があるとか言って去っていった。何しに来たんだあの女とジト目で見てしまった。その後すぐに、そんな目しないのと姉様に怒られたが。
「ララ、そろそろ姉離れしないと。貴女も貴族の一員なのよ?」
「……分かっています。姉様は敬愛する人で、聖女様で、私なんか必要ないって分かってるんですっ…でもでも姉様の側にいたいんです…」
「…まったく」
少し低くなった姉様の声にビクッとすると、頭を優しく撫でられた。
「ララは本当に私の事が好きなのね」
困った子を慈しむ姉様の微笑み。
外見も完璧な姉様の微笑みを見ただけで異性は虜になると一時期噂になった程、聖女然とした立ち振る舞いも素敵で……
ああ――
本当に――
この人は――
反吐が出る程、取り繕うのが上手だ。
でも…それだけだ。
だから、嵌められた。
それも、嵌めようとした友人に。