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最弱ギルドの挑戦状~元最強の冒険者、落ちこぼれ支部を立て直す~  作者: 拙糸
第三章 冒険者ギルドの宿命 編
39/93

8.矜持

遠隔観察(キティプワール)”の光を閉じる。


「よくやってくれたな……帰ってきたら……。」


机に突っ伏し、思わずそう呟く。ずっと気がかりだった。フラットは強がって、自分の本心を隠してしまう癖がある。だから、商人であるクラムが疑い、協力を断るかもしれない……そう心配していたが、杞憂に終わったようだ。

……さて。


「……いつ帰ってきてもいいように、準備しておくか。」


そう呟きつつも、自分の中にある暗い何かが、ずっと引っかかっていた。



あれから三日。

僕はクラムさんに許可をもらって、体力と魔力が完全に復活するまで、一部屋を借りて休ませてもらっていた。その間、商会長であるクラムさんのお仕事を見学させてもらっていた。

一流の商人はやはり違う。仕事は効率よく、かつ早く、より正確にこなす。ぽわーんとした話し方からは想像できないほどのすごい人だ。それでいて、剣の腕もある。

……クラムさんに言われたことがよみがえる。


『“失敗”を幾重にもかさねて、僕はここに立っている。』


……やっぱり僕は……。


――翌日。

クラムさんと話をしながら荷物をまとめていると。


「おおーっ、フラット、ここにいましたかー(棒)」


ニコニコとした笑顔でズカズカと入ってくる人が一人。


「………ロインさん。」


ずいぶんさわやかな顔をしている。


「いやー探しましたよ(棒) どこにいるのかと思っていたらまさかここでしたかー(棒)」

「………。」


白々しい演技。聞いていても恥ずかしくなるくらいの棒読み。

いろいろなことを述べているが、僕はクラムさんにすべてを聞いた。

……クラムさんの気が難しいことをわかって、隠れていたこと、とか。

それをわかって僕は、満面の笑みで返答する。


「ぼくも探しましたよー、まさか帝都の高級酒場で隠れていたなんてことはないですよねー。」

「ギクッ。」


ロインさんの額に冷や汗が出ている。ロインさんが目線をクラムさんにずらす。


『お前の行動がばれないと思っていたのか。あそこはアテレーゼ商会の酒場だ。用心しろ。』


そう目が語っている。

……僕は深呼吸をする。


「クラムさん……貴族様を殴ったら、刑罰に問われますよね?」

「いーや、ここは帝国領。アスタル王国の貴族に帝国法は効かないよ。」


クラムさんは、満面の笑みで返答する。それを聞いて、ロインさんは急に慌てだす。


「ちょーっと待ってください、いったん落ち着きましょう。ね、話せばわかります。そ、それに“遠隔観察(キティプワール)”だって!!」

「あー、それならもうないよ。とっくのとうに消えてるさ。」

「へ……??」


腑抜けた声を出す。キティプワールが何なのかは僕には分からないけど……。

チャンスなのは、僕にもわかる。指をポキポキと鳴らしてじりじりと寄っていく。


「さーてと。」

「ちょっ待てよ……だめですって……っ!!」


クラムさんがなにかを懐から取り出し、ロインさんめがけて投げる。それの力なのか、動けなくなってしまった。


「クラム……! 私の味方じゃないんですか!?」

「僕、そんなこといつ言った? ……さて、フラット。やっちゃえ☆」

「ああ……嘘ですよね………もっと優しく………」


ああああああああああ!

叫び声が、防音の壁を突き破って、外まで響いていたそうです。(使用人談)



帰りはクラムさんが馬車を用意してくれたので、お言葉に甘えて乗せてもらうことにした。商会の荷物運搬用らしいけど、元々人を乗せていた中古のものを改造してつくったらしいので、椅子もついており、快適だった。出発したのは朝だったが、道のりの半分にさしかかったころに日が暮れてきた。野宿をする必要もなく、御者さんも交代交代で運転してくれたので、安心して眠ることができた。

翌朝目が覚めると、砂漠を抜けて緑が多くなってきた。そして、木でできた大きな門が見えた。

ユンクレア、ユーグ村の玄関だ。

行きは三日もかかったアスタル中央街道の道のり。それを、たったの一日で戻ってきた。

クラムさんに感謝しないと。

ユーグ村に着いたので馬車を降り、御者さんに手間賃を渡す。お礼を言うと、すると、すぐに引き返してしまった。

なんでも、次の仕事が明後日に控えているのだとか。大変だ。


「やっぱり、ユンクレアは空気が澄んでいますね。」


大きく背伸びをしながら、ロインさんがそう言う。


「そうですね。」


ユーグ村を囲む森、その木々のてっぺんで、小鳥がさえずっていた。

荷物を抱え、ユーグ村の中心部分へと歩いていく。

一週間ぶりだけど、ものすごく久しぶりに帰ってきた、そんな変な感じがした。


「……おーい!!」

「……おかえりなさーい!」


遠くで手を振っている人が二人。あれは……。


「…スバルさーん、ミヨさーん、ただいま戻りましたー!!」


僕も大きく手を振り返した。

……もう一人、奥に影が。

腕組みをして立っていた。

僕はみんなの方へと駆け寄る。

スバルさんとミヨさんは、とびっきりの笑顔で出迎えてくれた……が。


「……………。」


奥にいた……フーガさんは、黙ったままだった。

……僕があまりのも帰ってくるのが遅かったから、怒っているのだろうか。

……あまりにも見つけるのがうまくいかなかったから、失望したのだろうか。

恐る恐る、フーガさんの顔を見上げる。


「………!!」


その顔は、あの時の僕と同じ。

いろいろな感情がぐちゃぐちゃになった、顔だった。



…俺は、フラットに合わせる顔がない。

…俺は、フラットにかける言葉が見つからない。


…笑顔で、「よくやった」?

…心配な顔で、「大丈夫か」?

…違う。

俺は、ギルドに入って間もないヤツに、とんでもない仕事を押し付けてしまった。

いくら人手不足とはいえ、重要な、しかも本来なら俺が出向かなければいけないところを、フラットに仕事を頼んだのだ。

遠隔観察(キティプワール)”で全て見ていた。俺がいないせいで、あいつはものすごく屈辱的なことを言われた。それなのに、フラットはそれをはねのけ、仕事を成功させた。

俺は……支部長失格だ。

ミヨやスバルたちとやったときのように、うまくいくだろう。

そういう楽観的な考えがどこかにあった。

そのせいで、フラットはケガを負った。

…仲間を、傷つけてしまった。


俺は、フラットをぎゅっと抱きしめる。


「……すまなかった。本当に、すまなかった。」


声をかける。

きっと、正解ではないであろう言葉で。

だけど、フラットも俺をぎゅっと抱きしめ返した。


「ごめんなさい……僕も、自分のことをちゃんと考えられていませんでした。」


ぽろぽろと、涙をこぼす。


「支部長は、僕の持つ力に気付いてほしくて、いろいろと手をまわしてくれていたんですよね。クラムさんが、言ってましたよ。」


あいつ……そんなことを。


「今回の仕事で、僕も決意を固めました。僕もユンクレア支部の一員として、冒険者を支えていきたい。ミヨさんや、スバルさんと。そして……支部長と。」


俺から離れ、満面の笑みを俺に向ける。


「だから、僕も頑張ります。冒険者のために!」

「そうか…。」


スバルやミヨも、近づく。


「そうですよ、支部長。僕たち、支部長のおかげで、仕事が、冒険者のために頑張るのが楽しいって思えるようになったんです。」

「それに、支部長の判断に誤りなんてないですよ。フラットくん、たくましくなって戻ってきたじゃないですか。」


腰に手を当て、エッヘンとやって見せる。


「お前ら……。」


そうだ、フーガ。お前が弱気になってどうする。支部を立て直すと大口をたたいたのはお前だ。

パンッと頬を叩き、気合いを入れる。


「……よし。ユンクレア支部を立て直すために頑張るぞ!!」

「「「おーっ!!!」」」


その声は、俺たちよりもさらに大きく、こだました。

さて、次回から新たな仲間が加わって再スタート!

さらに絆を深めた彼らに立ちはだかる壁は一体何か…?

お楽しみに!


―――――おまけ――――


「あの……私のこと、忘れてませんよね…?」


ロインは、蚊帳の外だった。

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