27 墓参り1
あれから、リリィさんは防波堤にも水族館にも来なくなった。あの日、お母さんと思われる女性に怒声を浴びせられ、今まで俺に見せた事も無い様な表情を、困惑の表情を俺に見せて、お別れをした彼女は、それっきり、あの防波堤の先端にも水族館にも現れなかった。
俺は、今日、墓参りに来ている。家から少し離れた丘の上の市の共同墓地、200基くらいがありそうな墓地に、年に数回しか来ないお墓の掃除にやって来た。
行き場がなくなった母さんは、親戚中をたらいまわしにされた母さんの遺骨は、結局、父さんが引き取って、市の共同墓地にお墓を建てて埋葬した。
母さんだけが眠る小さな小さなお墓、母さんの昔の名前、旧姓で掘った墓石。墓碑に建立の名前が刻んでない、死んでまで孤独に……親戚からも家族からも遠ざけられた、周りの墓から見れば、本当に小さい、無縁仏の様なお墓だ。
そして、母さんには位牌も無い。誰も死んだあと弔うことなく、ここに形だけのお墓を作って埋葬したんだ。とりあえず骨の置き場所が欲しかった、ただそれだけのお墓、死んで誰にも許されることの無かった母さんの終の棲家だ。
「母さん、今年も来たよ……」
俺は雑草を取り、バケツで汲んだきた一杯分の水でお墓を綺麗にして、無縁仏の様な墓石の前で線香を一束、バーナーで焼いて火をつけ手を合わせる。
母さんは骨になって帰ってきた。家を出て三年以上過ぎてから。どうなんだろう?本人にもう聞くことは出来ないけど……俺から離れていった、俺を置いて行ったあの日以降、母さんは幸せだったのかな?こうなってしまった今となっては、複雑だけど、そうあって欲しかった。せめて、そうあって欲しかったと思う。
「それじゃ、また」
いつの事になるかわからない約束を母さんにして小さいお墓を後にした。




