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凪の始まり  作者: 樹本 茂
2015年8月 凪の始まり(後編)
369/387

16 2015年8月 16

今晩は随分綺麗な月が出ていた。

三日月が、蒼く輝く月が出ていた。


夜空の主役を花火に奪われていたそいつは、その座を奪い返し、再び蒼く輝きだしたのか?


そんなはずは無いだろう。

そもそもそこにあったのだろう。

俺がそこに気が付かなかっただけ……


それだけだ。


まるで、俺の事だな。

いつも明るく照らしていてくれていた彼女は、何故そこで輝いていたのか?


それにさえ、もっと早く、気が付いていたら……

もっと早く俺が一歩踏み出していたら……

絶対に彼女は俺を無条件で迎え入れてくれたはずなのに……

何を考えていたんだろう、俺は。


雅さんの言う様に、それは只、かっこつけて、スカシテ、女子高生に愛されている事が困った事の様に、彼女が勝手にしている事ですという逃げ道を用意して、何かに縛られたふりをして、俺は、ただ怯えていただけだった。


そして、今夜、彼女は自ら答えを出してしまった。


サヨナラと言っていた、佐藤君と言っていたリリィさんは、俺との今での事なんか無かった事にしてしまったんだろう。


当時の事も何もかも、捨ててしまったのか……


思えば、あの日、彼女のお気に入りのあの場所で、俺の事をけんたろーと呼び始めて、いつも俺に笑顔を向けてくれていた彼女が、今夜……


俺の手の届かない遠い何処かにいなくなってしまった……


あの日……

俺を……

けんたろー…

と、言った、彼女は……


5年前の……

花火大会の……

帰り道……


リリィさんの……

お気に入りの……

秘密の場所……


あそこで……

あそこから……

俺達の関係は始まったんだ……



彼女は……


あの場所で……

あそこが俺達の始まりなら、終わりもあそこで……

彼女なら……

きっとそんな風に思って、あそこで、自分の気持ちに区切りをつけるんじゃないのか?


あそこにリリィさんはいる。


でも……

今までの彼女なら……

俺を愛していると言った彼女なら……


リリィさんは、あそこで、俺が迎えに来るのを待っている。


あの日と同じ三日月の月が出ている。


防波堤の真っ直ぐ通った、崖の裏の誰も来ない、彼女の、リリィさんの秘密の場所に、俺は坂を駆け下りて、全力で向かった。


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