16 2015年8月 16
今晩は随分綺麗な月が出ていた。
三日月が、蒼く輝く月が出ていた。
夜空の主役を花火に奪われていたそいつは、その座を奪い返し、再び蒼く輝きだしたのか?
そんなはずは無いだろう。
そもそもそこにあったのだろう。
俺がそこに気が付かなかっただけ……
それだけだ。
まるで、俺の事だな。
いつも明るく照らしていてくれていた彼女は、何故そこで輝いていたのか?
それにさえ、もっと早く、気が付いていたら……
もっと早く俺が一歩踏み出していたら……
絶対に彼女は俺を無条件で迎え入れてくれたはずなのに……
何を考えていたんだろう、俺は。
雅さんの言う様に、それは只、かっこつけて、スカシテ、女子高生に愛されている事が困った事の様に、彼女が勝手にしている事ですという逃げ道を用意して、何かに縛られたふりをして、俺は、ただ怯えていただけだった。
そして、今夜、彼女は自ら答えを出してしまった。
サヨナラと言っていた、佐藤君と言っていたリリィさんは、俺との今での事なんか無かった事にしてしまったんだろう。
当時の事も何もかも、捨ててしまったのか……
思えば、あの日、彼女のお気に入りのあの場所で、俺の事をけんたろーと呼び始めて、いつも俺に笑顔を向けてくれていた彼女が、今夜……
俺の手の届かない遠い何処かにいなくなってしまった……
あの日……
俺を……
けんたろー…
と、言った、彼女は……
5年前の……
花火大会の……
帰り道……
リリィさんの……
お気に入りの……
秘密の場所……
あそこで……
あそこから……
俺達の関係は始まったんだ……
彼女は……
あの場所で……
あそこが俺達の始まりなら、終わりもあそこで……
彼女なら……
きっとそんな風に思って、あそこで、自分の気持ちに区切りをつけるんじゃないのか?
あそこにリリィさんはいる。
でも……
今までの彼女なら……
俺を愛していると言った彼女なら……
リリィさんは、あそこで、俺が迎えに来るのを待っている。
あの日と同じ三日月の月が出ている。
防波堤の真っ直ぐ通った、崖の裏の誰も来ない、彼女の、リリィさんの秘密の場所に、俺は坂を駆け下りて、全力で向かった。




