13 2015年8月 13
声を掛けようとした、その刹那、
「佐藤君……
私……
帰る……
サヨナラ……」
振り向いた彼女は目にいっぱい涙を流し、絞り出すようにそれだけ言って、手を振りほどこうと、もがいた。
佐藤君……
帰る……
寮に?……
じゃない位、ボケの俺にも理解が出来た。
「来て!!」
「いや!」
大声を上げ、俺から逃げようとする彼女の様子を見ていた、人が、人達が……
「大丈夫ですか?」
見知らぬ人達が、声を掛けてきた。
そりゃそうか……
必死の形相で嫌がる女性を無理やり連れ去ろうとしている構図だ。
むしろ、このシチュエーションで誰も心配の声を上げない方が社会として不健全だ。
「ごめんなさい……
ありがとうございます……
この人は……
……
友達で……
喧嘩してただけなんです……」
「そう? 本当なら……良いけど……」
人混みの中、リリィさんの細い手首を掴み俺は、リリィさんにきつい視線を向けられて、次の句を告げずにいた。
見知らぬ他人に腕を掴まれた女性が、必死の抵抗をする、取り付く島もない、ゆとりも無い、もう少し言えば、明らかに俺を拒絶した表情を向けて、視線すら合わせなくなった。
………………………………
こんな表情するんだ……
「サヨナラ」
俺がリリィさんの表情にたじろいだ一瞬に、腕を振りほどき、一気に人波の中に紛れ込んで……
俺は華奢な背中を見失った。




