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凪の始まり  作者: 樹本 茂
2015年8月 凪の始まり(後編)
358/387

5 2015年8月 5

「どこ行ってたの?」


「ああ……トイレに、人がいっぱいで、時間食っちゃった……


あのさ……


さっきの……」


『佐藤健太郎君童貞喪失15周年』


俺がリリィさんに……

雅さんが言う様に誤解があるのなら……

違うな……

さっきの事を謝りたくて、それを口から出そうとしたその一歩早く、打ち上げ花火のスポンサーを知らせるアナウンスが……


しかも……


「え! けんたろーの事?」


「なんのこと……ダイ?」


「今のアナウンスよ!……


あれ……


なんか……デジャヴ……が」


俺の隣の椅子で、俯きながら、額に指をあてて鋭い目つきで過去を振り返っているリリィさんが……


「どうした? 疲れたかな? ははは」


「うるさい! 黙れ! もう少しで思い出せそうなんだから!」


うううう、と小さく唸る。


「だめら! 思い出せん!」


そうでしょう?

そうそう……


「なんだっけなぁ、前にあった感じがしたんだけど……」


「ああ、そう言うのってよくあるよね、うん、よくある」


俺をきつめの視線で見ていたリリィさんは、正面の方に視線を移し……


「あああああ! あれだ! 思い出した!!」


なんですと?


正面の中央……

俺の方に振り返り、良い笑顔のサムズアップ……

オーナーの良い笑顔を見て……


リリィさんは……

合致したらしい……

5年前の記憶と……


「え? けんたろー……

私、5年前は気が付かなかったけど……


けんたろうーの事よね……

今の……


私……


けんたろうー……


今なら、分かるよ……


けんたろうー……


15周年なんだ……」


ああ、表情が険しくなった。


「リリィさん……

オーナーの冗談だからさ……ね?」


「………………………………


うん……


そうだね……


わかってる……


よ……


15周年……

15年前……

全部繋がった……


分かった……

理解した……


けんたろー

分かったよ……


冗談で済まないことぐらい……」


まっすぐ前を見て、笑顔のオーナーの方を……


違うな……


オーナの隣に座る雅さんを見て……リリィさんは……

明らかに……

喋らなくなった……

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