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凪の始まり  作者: 樹本 茂
2015年5月 凪の始まり(前編)
351/387

34 2015年5月 34

セーラー服の胸元には可愛らしい百合の花に小さなダイヤが埋め込まれたネックレスが光っている。

あの日、お別れするバスターミナルでプレゼントしたバレンタインのお返し……


「リ、リリィさん……


来てくれたんだ……


本当に……

来て……

くれたんだ……」


俺の声が聞こえたリリィさんは震える唇をゆっくり横に広げるとニィと笑って、


「ただいま!

けんたろー!!!


待っててくれたんだ!


嬉しい!!」


と言うと、俺のところに駆け寄り、抱き着いて、胸の中で、声を上げ泣きじゃくる。


俺は、


「待ってないよ」


なんか、子供との約束を真に受けたみたいで、ばつが悪くて、つい、嘘をついた。


「○△、□×! ○○△△□××」


「リ、リリィさん……

ロシア語、ロシア語になってるよ」


「噓つき、そんなに真っ黒じゃない、わかるよ、バカじゃないの?」


そうか……

わかるよね……


「リリィさん、その制服は?」


リリィさんが着ている制服は地元のお嬢様学校の制服で、陽葵先生が出た学校の制服で……

先日、未海さんも着ていた制服……


だった。


「私、いま、交換留学生で一年間、ここに来たの、いる事になったの……

4月に来てたんだけど、怖くてここに来れなかったの、もしも、ここに来てけんたろー が居なかったらって思うと怖くて……


それで、一か月も過ぎちゃったの……


それで……


この間、あの水族館の方からみて見たら……

けんたろーいなくて……


ああ……

やっぱり、そうだよね……

子供の話なんて……

真に受けて、聞くわけないよねって……


諦めて……


近くに行かないようにしたの……

悲しすぎるから……


そしたら、いま、さっき、未海ちゃんが、けんたろーの事言い出して、走ってきたら、途中で、ずっと前に、浴衣を着せてくれたけんたろーのお姉さんに会って、けんたろー は今でも毎日、雨の日も風の日も雪の日も台風の日も、ここの防波堤の先端で私を待ってるよ。待ち続けているよ、4年間。って、言われて、私……

嬉しくて……

嬉しくて」


雅さんか……

盛りすぎだろ、ハードル上げすぎだよ。


「もしも、俺がいなかったらどうする気だったの?」


「明日も来る……

その次の日も来る……

ここで会えるまで来る……


でも、待っててくれたんだ……


とっても嬉しいよ」


涙を流しながら俺の胸元でうずくまるリリィさんに、


「リリィさん、背伸びた?」


「5cm……」


「色、白くなった?」


「元々の色に戻った」


「少し、いや、大分、女性っぽくなった?」


抱きしめている感触から、胸のふくらみと腰のあたりを感じて……


「ちょっと! 事案よ。それに、何? 4年ぶりに感動の再会をしているのにそんなセリフしか言えないの? 残念なのね! 全っ然、成長してないのね!!」


成長って……俺……良い大人だよ……ずっと前から今迄。


拗ねて、横を向いたリリィさんに、


「ああ、ごめん。ごめん……」


キツメの視線で見つめ返した彼女は、


「私なら、四の五の言わずに、こうするわ!」


俺の頭を両手でわしっと掴んで……


キスしてきた。


頭を掴んでいた手はやがて首の後ろへと周り、4年間を埋める激しいキスをされるがままに身を任せていた俺は、しかし、甘いリリィさんの吐息で、ついにこらえることが出来ず、腰に手を回し、リリィさんの問いかけに……


4年間を埋めるための激しいキスでの会話に、答えた。

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