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凪の始まり  作者: 樹本 茂
2015年5月 凪の始まり(前編)
325/387

8 2015年5月 8

「ごめんなさいね。佐藤さん。

ここで会おうって、言ったんだけど……先に来て喧嘩するとか……」


おっとり口調の未海ちゃん……いや、未海さん……

可愛い……

すっかりお姉さんっぽくなった未海さん5年ぶりの再会です。


「佐藤さん……さっき、結城さんに聞いて、今、来てみたんだけど……


もしかして……

リリィちゃんを?……」


潤む瞳が……

輝いた気がした……


「え? ま、まさか……」


いやいや、分かりやすい動揺を……

だって、なんか……人に言われるってやっぱり恥ずかしい……


「だって、ここって……リリィちゃんとの思い出の場所だし……


佐藤さん……

リリィちゃんなら……


もう……」


「いいよ! 分かってる! 言わないで……」


もうって……

なんだよ……

未海さんも雅さんと同じことを言いたのだろうな……

そんなに待ってどうするって……


もう、ここで、待つようなことはするなって……


リリィさんは……

待っていても来ないよって……

来るはずが無いよって……


そう言いたいんだろう?


「でも……

ここって……

リリィちゃんと良く来てた場所じゃ---」


「本当に……

これは俺がしたいからそうしているだけだから……


リリィさんとは関係が無いんだよ」


精一杯の強がりだ……


「でも……でも、釣竿……」


潤む瞳で未海さんは言いたいことを飲み込んで……


ああ……

仕掛けが付いてないのに気が付かれちまったか……


俺はここで待つ間、ただ座っていたのでは、傍から見たら、不審この上ないので、釣竿を持ってきていたのだが……


もう面倒なので、仕掛けも投げ込まずに只、竿を転がして置いていた。

それをあざとく見つけて、その真意をくみ取ったであろう未海さんが、俺から少し視線を外して、小さく、


「そうなの? なら……


何も言わないよ……


でも……

リリィちゃん……

聞いたら……

悲しむよ……」


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