36 別離12
俺はオーナーに呼び出された。
「……健太郎、わざわざ悪かったな。座ってくれ」
本部のオーナー室に大分、日が伸びた夕暮れ時、俺は就業中の内線電話で呼び出され、歩いて5分程度の本部がある4階建ての一番上の奥のオーク材で出来た照りのある黒光りした扉を開け、オーナが座る応接セットのソファーに座り正対した。
「……まずは卒業おめでとう。やり切ったな。大したもんだ」
今日も強面の白髪交じりのオールバックで細身の縦縞ブラックスーツののオーナーはソファーに深く腰掛けてゆったりと笑みをこぼして俺に言葉を継ぎ始めた。
「……まあ、満島君の事は残念だったなあ、残念だ」
少し、天井を見上げオーナーは先生の生前に思いを馳せている様に見える。そのオーナーが暫く天を仰ぎ見ていたが、俺に視線を戻して、
「……お前、満島君に頂いた人生をやり直せ……
それには、お前はここで働いていては駄目だ。お前自身がこの一年で考えたことを、思っていることを、お前なりにあるはずだ。それを実現する為に、ここから出ていけ。いつまでも、生きやすいからって、ここにいるな。
お前には、ここで働く以外の別の人生があったはずだ。それを思い出させてもらったんだろう?
迷うな。
目指せ。
小学校に通ったように機会を逃すな。
それが今だ。
時間は待っちゃくれねぇ。今日から、それを目指せ!
わかったな」
俺をまっすぐに見るオーナーの相変わらずの強面から継いでくる言葉が俺には重く聞こえた。人生をやり直すか……
小学六年生をやり直したように……
やり直す……
か……




