34 別離10
「あ、リリィさん、これ。バレンタインのお返し、あの……ちょっと、言いずらいんだけど、12歳の女子にあげるにはちょっと、変なんだけど……お姉さんにあげる様なものになっちゃってさ、そんなに深い意味は無いから、気に入ったら付けて見て」
「え? なに? 嬉しい……時間が無いからあとで見るね……」
リリィさんがパッと明るくなって、いつもの可愛い笑顔を見せた……
嬉しい……
その笑顔がずっと見られたら……
どれほど良かったか……
俺を見つめていたリリィさんの表情が次第に陰る。
別れの時間がすぐそこまで迫っていてそれを彼女は感じているのだろう。意を決して俺の目を見つめ、切ない表情を見せながら、ゆっくりと話し出した。
「けんたろー……
ありがとう。ずっと忘れないよ。私を学校に誘ってくれて、みんなの中に入れるようにしてくれて……
未海ちゃんと仲直りさせてくれて……
私、私、すぐに帰れないかもしれないけど、絶対、絶対、必ず、一人でも、ここに戻ってくるから……
絶対……
あそこで、あそこの防波堤のいつもの場所で、あそこで待ってて、私、必ずけんたろー に、あなたに会いに帰ってくるから……」
言葉が詰まったリリィさんは、いきなり俺の頬にキスして、抱き着いたまま、
「……再会の約束のキスよ。ママの国ではそれが……
普通なの……
私はあなたが思っているより、ずっとずっと大人で、ずっとずっと本気なの」
少し、俯き、涙を振り払って俺から離れたリリィさんはバスの入口へと駆け上り、窓際の席へと座る。
リリィさんの俯いた横顔を必死に追っていたが、リリィさんは俺を見る事は無く、そのままバスは走り去っていった。




