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33 別離9
「けんたろー……
私、多分、戻れない。ママは、もう限界だった。ママのこと考えたら、それは、多分、丁度いいタイミングで……
向こうで、モスクワで暮らすことになると思う。だから、けんたろー が聞きたい答えは言えない。ごめんね」
「そうか……
残念だね。せっかく仲良くなれたのに……
残念だ」
俯くリリィさんに俺は何一つまともなセリフを掛けてあげられずにいた。俺は自分の語彙の無さと……
心の奥の大切な何かをさらけ出す勇気の無さを恨んでいた。
バスのエンジンがかかる。もう出発なのだろう。リリィさんのママが窓を開けて呼んでいた。




