30 別離6
街はガソリンを求める車の長い列が続き、入れられるかどうかすらわからないガソリンの為に一日も、数日もかけて列が出来ていた。
スーパーも入口の前にはいつ開くかわからないのに列が出来て、開いたとしても自由に物を選んで買う様なものでは無く、あるものから選ぶ状態だが、それでも、1時間もしないうちに売るものが無くなり、閉店になっていた。
「いつから店を再開出来ますかね?」
郷田さんと電話で話をしているのだが、まず、余震が収まらない。まったく収まらない上に、原発事故の混乱で何も言えない。想像すらままならない。そんな状態である。
「そう言えば、店長、美琴さんのヒモは津波で亡くなったらしいです」
「……………………」
はんぺんちゃんが流れ着いた波留神社の傍にヒモは流れ着いていたらしい。いつも海岸通りをはんぺんちゃんとあの時間に散歩していて、家にでも帰るつもりだったのか恐らく、俺がリリィさんに早くこっちに来いと怒鳴られたあの波に吞まれていたのだと、そう思った。
「美琴さんには?」
「連絡が付かなくて」
「そうですか、私も時々様子見てみます」
ヒモとは言え美琴さんにとってはかけがえのない人物だったのだろうと容易に想像はつく。美琴さんにどんな言葉をかけたらいいのか、簡単には言葉が出てこない。




