299/387
21 奪われた日常21
「綺麗だね……けんたろー」
ボートの中で横になる俺の胸に抱きついて、神社の森の、木々の隙間から見える満点の星空を眺めていたリリィさんはそんな事を言った。
「そうだね……」
停電になったのだろう……
街の明かりは何一つ無く、けたたましく鳴っていた防災無線もサイレンも沈黙を守り、辺りは静寂と漆黒と……ただ、満点の星空だけが、普段以上に輝いて見えていた。
「こんなにお星さまってあったんだね……」
俺達、三人と一匹はボートを下に敷いて、その中でうずくまり、リリィさんが持ってきた毛布一枚を掛けて温め合っていた。
とにかく寒い……
3月の上旬だというのに、下手したら雪が振りそうなほど、そして、下からの、地面からの冷気をまともに喰らう、ずっと揺れ続ける今の状態では……とても寝る事なんかできそうになかった。




