17 奪われた日常17
階段を勢いよく駆け昇る音がした。
リリィさんだ……
「けんたろー!!
200mだよ。走れば1分かからない。
ボートだっておんなじだって!
見てよ、遠く、港の方!
水に全然、動きが無いでしょう?
津波が押し寄せた時は、防波堤から来たけど、引くときは一番低い、あの港の川から動くんでしょう?
まずあそこから動くんでしょう?
だったら、今動きが無いって事は、こっちが動くまでに1分以上かかるんじゃないの?
でしょう?
気を付けなきゃならないのは、また、防波堤を越える様な波が来るかでしょう?
でも、今はそんな風には見えないよ!
今なら、行けるよ!
けんたろー!
私なら、良いよ!
けんたろうーが決めた事なら、絶対に大丈夫だって信じてる!
だから、けんたろー!
決めて!!
けんたろーは、今までも、私には絶対に、正しい選択をしてくれたから!
だから……信じている。
今すぐ、決めて!
私、けんたろーが決めたんなら、後悔しないから!!」
薄茶色の大きな瞳が揺れていた。
迷いしかない。
このまま、ここに居ても、津波にのまれる危険性がある。
ここから、ボートで200m漕ぎ出しても、引き潮に持っていかれる危険がある。
どっちに転んでも、俺の大切な子供同級生と虚ろな目で立ち尽くす彼女のママの命は……
俺が握っているんだ。
どうする……




