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14 奪われた日常14
目の前の浪たまりを左に折れて100m、そこを右に折れて、300m……更に右に折れて400m……そこまで行けば上り坂になる。この目の前の水深であれば、そこの坂より上に浸水してはいない。
いつもリリィさんが学校の帰り道、手を振ってバイバイしていたあの分かれ道だ。
一番の難所は、左に折れてから目の前に広がる防波堤に守られている前面に広がる太平洋……
今は……この瞬間は、その防波堤を波は越えてはいないが……
防波堤を左手にしてからの300m、右に折れて背後にしてからの400m……
そこを手漕ぎで……
怖すぎる……
引き波になったら……
絶対に持っていかれる……
絶対に死ぬ……
水さえなければ、たかだか1km……
走れば5分……
の場所だ。
俺は現実の目の前の真っ黒な水を見て、水が無かったらなどと妄想して、逃避を起こし始めていた。
崖を無理やり登るか……
アパートの二階に避難するか……
一度消えた思いが、答えの出た不可能な選択肢が、俺の頭の中でぐるぐる廻って、答えの出ない迷路にはまり込んでいった。




