10 昔のこと
「先生はね、ずっとあなたの事気にしていたの。
ずっとずっと……
多分、私の事よりも心配していたんじゃないかな?
もう何年になるんだろう……あなたの担任になってからだから……」
誰もいない二階の廊下奥の椅子が並ぶ一角に俺は先生の奥さんと一緒にお茶を飲みながら、話している。
「16年です」
「ああ、もうそんなになるか……」
俺が学校に通わなくなって、次の年の六年生開始からだから……
俺を見つめて、笑顔を見せる奥さんは、
「あなたの家に行って宿題を預けて、回収して家に帰る。これを1年間……毎日。
帰って来るとあなたとの話を楽しそうに私に聞かせてくれるの。
今日はこんな事を言っていたって。
でも、いっつも言っていたわね。
なんで、学校に来ないんだろうって……
でも、彼はきっとやって来るって、かならず来るって……
どんな理由なのかが分からないって……
だから、学校に来なさいって僕は言いたくないって……
変な人よね……
自分で理解出来ないのに、それをしろって言うのはフェアじゃないって……」
「そうなんですか……そんな事が……」
確かに先生は俺に一回も学校に来いとは言わなかった……
遊びに来いっては時々言っていたけど……




