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凪の始まり  作者: 樹本 茂
12月 健太郎は人を愛せない
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41 店長

その次の日……


「……健太郎……お前……ヤッタな」


え?

何故、分かった?


「え? いえ、そんな事無いですよ」


「……おい! お前、俺に嘘つくとはいい度胸してるじゃあねえか? 俺が口に出してるって事は、それなりに証拠が有るって事だぞ。


もう一度聞く……健太郎……ヤッタな?」


店長が俺に凄んでいる。

もはやこれまで。


「……はい」


「……そうか

……そうだな。店の従業員が女を知らねえってのもどうしたもんかって、気にかけてたんだが、子供に、おめえヤッテ来い、っていう親もなかなかいねえし……

考えあぐねていたんだが……

まあ、そうだな、そりゃあ、赤飯たかなきゃな」


「店長……どうして、その」


「……ああ? なんでわかったかって? そりゃあ、秘密だよ。企業秘密って奴さ、ハハハハハ」


事務所から出て待機部屋の前を通ると、


「今日からお世話になる事になった雅でっす! よろしくね! ケンちゃん!」


「れ、レイア……さん」


「違うって、心機一転。昔は全て捨てて来たんだから。


私は雅。


生まれ変わったのよ。何もかも捨て去って」


啖呵切って、まとわりつくなと言ったあんたは、なんだったんだ。俺の純情を返せ。良い笑顔で

鼻歌を歌いながら俺の前にいるこいつ。


「東京での一夜は内緒だぞ! それと代金は貸しにしても良いぞ!」


俺を抱きしめ耳元で小さく呟いた。

東京に見切りをつけ、こっちでの新しい生活を始める新米家族。

レイアじゃなくて、雅さんはこうして、俺達の仲間になった。


そして、この時の俺は、この後、この人と長い付き合いになる事をまだ知らない。


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