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凪の始まり  作者: 樹本 茂
5月 リリィさん
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4 経済理論家

「私の夢は二十代で一億円貯める事なんです」


俺との最初の出会いの面接の最初のセリフがそれだった


「この業界でも一億はかなり難しいと思うよ」


俺は率直に否定した。


「分かってます。でも、その辺のバイトでは時間800円くらい。その10倍以上の御社に私の夢を託します」


いやいやいや、そんな大したものではござらぬ。ホントに。


「一億ためてどうするの?」


「早期リタイアです」


「早期リタイア……」


「はい、まず私は年間360万円使うとします」


「はい」


「私は、早期リタイアするので、それ以降、無収入になります。そこで、年間の運用益を3%~4%の投資をします。そして見積もった時に必要な原資がいくらかと考えると凡そ一億円になるわけです」


「ほう」


「それには、私は二十歳なので、残り10年間で1000万円ずつためる必要があります。今後、就職したとしても大卒の平均年収が300~400万円程度のこの国では、とても実現できるとも思えませんので、恐らく、就職した後も続けることになると思います」


何処の就職面接だよ。うちなんか、履歴書に名前が書いてあれば即採用だっての、言いすぎか、これでも接客業だからそれなりにちゃんと見てるぞ、ちゃんと。


「鈴木さん、それは相当厳しいよ。年間1000万円とすると、月、凡そ80万円になるよね。それには、1か月20日とした場合、一日4万円だから、凡そ数人を相手にしないといけない。それを20日間、12か月、10年は過酷だよ」


考えれば、分かる。そんなにするか?一日4回20日間。……普通、しないよ。


俺は、否定をするつもりは無いが、現実だ。無理をすると身体も心も不調をきたす。思ったよりも楽ではないのだ。新人は最初、飛ばす。それで3か月もすると調子を崩して辞めていく。そんな子が多い。


「投資先はどうするの? 銀行利子は4%なんて無いよ」


「はい、日本の株価は20年前と何ら変わらないですが、アメリカの株と国債、それと世界中の株、信託、債券とそれぞれリターンバランスを見てポートフォリオを組みます。それをする事で、リスクの分散を狙っています。今や、世界の株などはネットで売買できる時代ですし、今後この流れは広がっても逆行するとはとても思えません。ああ、でも、日本株もどう見ても割安ですから、頃合いを見て手堅いところは拾いたいですね」


ああ、上手い事トスを上げてしまったようだ。嬉々として説明するその子に俺は、


「相場の急変、つまり、価格の下落、価値の下落が起こったらどうするの?」


核心を突いた。


「はい、相場の急変は100年に一度の大暴落が10年に一度起こるものです」


「100年に一度が10年に一度?」


「そうです。大騒ぎするけども実は10年に一度そういう事は起こるのです。そして、重要な事は、その後、2年から4年以内に元に戻るという事の方が重要なのです。そこで、慌てて投資から降りる事はしてはいけないです。その数年を問題なく過ごせるバッファを持たせておく、つまり、現金で2年から4年分を持って、利回りが達成できないときはそのバッファを崩して食いつないでおけば、いずれ相場は元に戻り、更に買い場を提供され、気が付けば暴落前より資産を増やすことが出来るのです」


目を輝かして俺に説明する彼女は、証券会社の営業か何かなのでしょうか?俺はその話に引き込まれていた。


「たいしたもんだね。君が考えたの?」


「いえいえ、私はそんなに賢くないです。既に50年以上前からアメリカにある理論です」


会話がちゃんとできるね。不採用にする理由はない。


「えっと、ウチのお店、なにする店か知ってるよね?」


見た目、ザ・普通の清純系女子大生に一応聞いてみた。


「はい、もちろんです。私、大好きですから!」


はい、即採用。命名ことりちゃん。可愛い鳥の赤ちゃんみたいに、お目目くりくりで唇が可愛らしいから。


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