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凪の始まり  作者: 樹本 茂
10月 けんたろーの旅路
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27 けんたろーは……

「お兄ちゃんはお父さんが消えて、絶望した。


世の中のすべてが自分の手から落ちていったことに絶望したの。


毎日、食べるのにすら、困っていた。


それはそうよね。何も出来ないんだから、同じ歳の子達は高校に入った年よ。


お兄ちゃんは、困り果てて、食べ物も無くなって、どうしようもなくなって、知り合いのおじさんを頼った。そのおじさんは、食べ物をお兄ちゃんに与える代わりに仕事をしろと、自分の経営するお店の従業員にして、お金と、食べ物の心配を無くしたの。


お兄ちゃんは一生懸命働いた、そのおじちゃんは、がんばるお兄ちゃんをたくさん褒めて、たくさん愛して、幸せは望めば必ず自分の物になるって教えてくれたの。それまでのお兄ちゃんは、望めば幸せは失う物だって、そう信じていた、頑なに信じていた。


でも、それは、違った。少しずつ、少しずつだけど、お兄ちゃんは、わかってきたの。求めても無くなるばかりではないって、自分の望む未来もそこにはあるって。


まだ、私から見ても、全部を信じている様な感じはしないけど、きっとお兄ちゃんは幸せになる。


その為の初めの一歩、ううん、はじめのやり直しを、失った小学6年生を、やり直しているの。


当時の先生に誘われて、お父さんに捨てられた絶望とお母さんに置きざりにされた孤独を埋める旅を今年、始めたの。


そして、その旅に私も一緒に連れて行ってもらうことにしているの。


お兄ちゃんは、きっとお父さんの事を許さないと思うけど、今は、多分、恨んではいないわ。私は、私にはわかるの。だって、そのおかげで、いろんな出会いがあって、助けて、助けられてここまで来たんだから」


マッサージをするおじさんの目から涙がこぼれ落ち、メガネの中にたまって、そのまま、布団の上へとこぼれ落ちている。


ごめんなさい。


何かの復讐じゃないの。


けんたろーはおじさんに話さない。


私はそう思っている。


私の大好きなけんたろーは優しすぎて、自分のした、生きてきた苦労の事なんか簡単にひっこめる事が出来る人だから。


真実の10分の1にも満たない、けんたろーの昔の、私が知る、けんたろーの中で他人に話せる消化できた、さわりを、私は、けんたろーのパパに話しした。


パパは聞く義務があると思ったから、何であれ、けんたろーの背負った人生の苦労はけんたろーのパパが知らなくていい事はないから。



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