15 けんたろー!私を見なさいよ!
地下鉄を何本か乗り換えて、私はすっかり、どこにいるかわからなくなって、構内の人の多さに酔いそうになり、あわわとなりかけたので、けんたろうーに手を繋いでもらって歩いている。
ついでに恋人繋ぎにしてもらった。
「ねえ、けんたろうー、この服、見て」
あんまり喋らない、雑踏を見て、もくもく歩くけんたろうーに私を見ろと迫った。この服はけんたろうーの勤め先のお姉さんが私のために作ってくれた白黒チェックのミニワンピ、と~っても可愛い。私のサイズで作ったからピッタリ。私のお気に入り。だから、そういうところには全くの関心がなさそうな、けんたろーに言わないとわからない大人小学生に、私は、ほれ見ろと少しスカートの裾を持って迫っている。朝のバスの中でも言ったが全く分からなかった。
「あ! これ!」
やっと気づいたのか………………お前、無駄に年取ったな。そんなだから、彼女いねぇんだよ。
驚きつつも、ぱっと明るくなる、けんたろーの表情にさっきから人の多さと、けんたろうーの無言に苦しくなっていた私の乙女心が和む。
何で、そんなに苦しそうなの……今まで見たことのない表情と空気を纏ってけんたろーは黙々と、もしかしたら、隣で私が一緒に歩いている事すら忘れていそうな、そんな、事を感じるくらいにけんたろーはけんたろーじゃ無かった。




