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凪の始まり  作者: 樹本 茂
10月 けんたろーの旅路
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12 けんたろーの落とし方1

「何で、リリィさんここにいるの?」


「だって、けんたろーが凄い思いつめた顔してホテルを出ていくところ見ちゃったから、気になって、ごめんなさい。後つけちゃった……」


私を大好きなけんたろーなら、この手で落とせる。私は今までの経験で最適解を出した。


「リリィさん、俺、これから人に会うんだ。悪いけど、ホテルに戻ってくれる?」


え?


何言ってんの?


私よ。


私が来たのよ。


もう少し喜んだら?


少し……


いえ、かなり、困惑というか有体に言えば迷惑顔を私にして、わかりやすい顔のディスプレイに“早く帰れ”と書いてある。


「イヤよ。何でそんなに怖い顔しているのか話してくれなきゃ帰れない、っていうか一人で帰れない」


そんな事は無いが、粘ってみた。


「俺、これから人に会うんだ。十なん年かぶりに。だから、ホテルに戻って」


困惑というよりも結構、何?……


見た事無い寂しげな表情をしている。昼のお弁当からおかしいよ。けんたろー。どうしちゃったの?私はそれも気になって付けてしまったのだが、地下鉄の駅の帰宅時間の雑踏の中、私とけんたろーの二人だけが、ぽっかりと喧騒に取り残された様に立ち尽くしていた。


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