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凪の始まり  作者: 樹本 茂
10月 けんたろーの旅路
135/387

6 水族館2

「リリィさん、誰もいないよ」


「え? ホントだ」


俺とリリィさんはイルカショーの終わった客席でやり取りをして気が付けば既に30分。


「あれ? もうバス、出る時間では?」


俺が悠然としている班長に聞けば、班長は、


「いいよ、最悪、けんたろうー、お金あるでしょ? 先回りしてホテルに行こうよ。ね」


んな訳ねえだろ。


「行くよ! もうみんなバスだよ」


「ヤダって」


何言ってんだ、ヤダって。


「大丈夫だよ。簡単に仲間を見捨てないよ」


海兵隊かよ。


“修学旅行でいらした6年1組の篠塚リリィさん、佐藤健太郎君、至急バスまでお戻りください。先生がおまちです”


「ほら、放送されてんじゃん!」


俺があわわとなりながら班長に言うと、


「私、こういうの嫌いなのよね。なんか強制的で」


何言ってんだ、ただの遅刻じゃねえか。もう駄目だ。横を向いて遠くを見て、ため息をつく子供大人を見て、俺は思った。


こうなると、こいつ絶対動かない。


天邪鬼だから。


隣のプラスチックの椅子に座る班長こと子供大人に俺は一瞬で立ち上がり正対し、薄いロリボディのわきの下に両手を突っ込んで、サッとすくい上げ、右肩に担いで、お尻と太ももの境辺りを右腕でホールドして、イヤーという完ロリの悲鳴などものともせずに、猛ダッシュを決め強制連行した。


「いや~、やだ~!! いきたくな~い!」


俺の肩に乗せて、細い足をじたばたさせながら抵抗する、大人っぽいミニスカワンピに身を包み、栗色ロングウエーブヘアが綺麗な、背中しか見えていないと、どっから見てもデートOLにしか見えない女性が、本気声で叫んでいたら、目立つ目立つ。


俺は、駐車場まで拉致して、バスへと投げ入れた。


ぶん投げた。


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