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31 未海さん9
「………………」
未海さんが玄関のドアを開けて、立っていた。
「良いから、入っていなさい!!」
お母さんが振り向き、激しく言う。
「未海ちゃん! 私とお話しよ!!」
未海さんは少し前に歩み出て制するお母さんの腕を払いのけると、リリィさんの前まで進んだ。
未海さんは、口をギュッと堅く閉じているが、その視線は、子供ながらに覚悟を決めたように俺は見えていて、その視線の先にはリリィさんをハッキリととらえていて、数歩、お母さんの前に出て、リリィさんの前に立つと、ゆっくりと呼吸をして、表情を硬くした。
「リリィちゃん……ごめんなさい……私、ちゃんと、ごめんなさいも、ありがとうも言えてなかった。だから、最初に言わせて……こんなに遅くなっちゃったけど、ごめんなさい。そして、ありがとう……」
クラスでも背の小さな未海さんは、俯いて、小さくお辞儀をして、声なく涙を流していた。頭一つ大きなリリィさんは、小さく見える未海さんを抱きしめて、耳元で小さく囁く……
「……一緒に海を見に行かない?……そこで、お話し……しよう……」




