26 未海さん4
「リリィさんは、このことについてどう思っているの? 正直な気持ちはどうなの? 本当に何も思っていないの? 君はそんなに物分かりがいいの?」
腕の中でうなだれていた、リリィさんは俺の顔を見上げて、じっと俺を見つめて動かない。
もの言いたげな視線に変わったリリィさんは、言いたい事を言えずにいるように俺には見えた。
そうだよね。君にだって言いたい事はあるはずだよ。リリィさんの口元が何かを言いたげに少しだけ動いている。
「言って」
俺は彼女の目を見て言葉を促した。
「……ずっと、ずっと思ってた……
何で、未海ちゃんはあそこにいたの?
何であの時、溺れたの?
いなければ良かったのに!
何してるの!!
何でパパは……パパは未海ちゃんを助けたの?
助けなきゃいけなかったの?
何で死んだのが……パパなの?
あああああー」
リリィさんはずっと、ずっと言いたかっただろう言葉を吐きだした。
誰にも言わなかった、大人のリリィさんは、物分かりのいい大人のリリィさんは、誰にも言えなかった。
決して、恨みの言葉を吐くことを良しとしなかったのだろう。俺には、俺にだけでもそう言って甘えてくれれば良かったのに。思いの内をほんの少し俺に言った後、俺に身体を預けて激しく泣きじゃくり、言葉にならない言葉をいくつか継いでいた。




