12 リリィさんの不登校6
俺は昨日の夜、美琴さんにお願いして、階下のリリィさんの部屋の様子を見張ってもらっていた。きっと夜中、リリィさんのお母さんが飛び出していくに違いないから見張ってくれとお願いしていた。そして、その後も声を掛けずにつけてくれとお願いしていた。
リリィさんのお母さんは、アパートを出て、街に向かってあてどなく歩いて、街の中心部まで行くと海に向かっていった。そこから、浜に向かっていって、泣き崩れていた。
真夜中の海、浜辺……もう少し、南寄りなら、明かりも灯って明日への出航の準備などで人も行きかっているだろうが、そこは夜中に人が行くような場所ではなかった……
途中で人に行き会う事は少ないようだが、すれ違う人はやはり、奇異な目で見ていた。らしい。
夜中に一人ごとを言いながら、他国の言葉で一人焦点の定まらない視線を送りながら妖しく歩く女性に声を掛けるものなどいない。そして、行きついた先は人気のない岩場に隠れた地元の人しか知らない様な小さな浜辺だった。
そして、そこには同じくらいの背丈の女性が付かず離れず、時に腕を取りながら一緒に……少し、あとをついて歩いていた。遠目には若い女性が2人で歩いているようにしか見えなかったようだ。とても、小学生が真夜中に発作的に徘徊するお母さんを心配して歩いているようには見えなかったようだ。
そして、しばらく、その浜辺でお母さんは、泣いたり笑ったりして、時間を過ごすと、リリィさんに声を掛けられて手を繋いで家に、アパートに帰っていったそうだ。




