47.叶えてやるとは言っていない
「蛆虫! いつまでうだうだしているつもりだ!!」
しゃんとロベルトの背筋が伸びた。
「そんな暇があったら鍛錬だ! 筋肉は裏切らない! クソの役にも立たん悩みなんぞさっさと捨ててこい!」
「サー、イエス、サー!」
「貴様の兄貴はウジウジ悩んでいろと言ったのか!?」
「サー、ノー、サー!」
「そうだろう! 貴様に頼むと言ったのだろうが!」
ロベルトが、はっと目を瞠った。顔をきりりと引き締めて、ロベルトは声を張り上げる。
「サー! イエス! サー!」
「兄貴が戻ってきた時にその情けないツラを晒すつもりか!?」
「サー! ノー! サー!」
「だったら今すぐ行動しろ! 貴様に出来るのは全力で足掻くことぐらいだろうが!!」
「サー! イエス! サー!」
ロベルトの大声に、候補生と教官たちが何事かと集まってきた。
グリード教官が、私にちらりと目を向ける。私が頷くと、彼は集まってきた候補生たちに「見せもんじゃねぇぞ」と怒鳴って散らしにかかった。
これだけ大声で叫んでいたら、気になるのも仕方ないとは思うのだが。
当のロベルトはすっきりした表情で、にこにこ笑いながらいつものキラキラを私に飛ばしていた。
「隊長」
ロベルトが、じっと私を見つめる。
さっきは見下ろされていると感じたはずなのだが、今はそうは感じない。
むしろ見上げられているような気がするから、不思議だ。
「いつか、俺が隊長に勝つことが出来たら、その時は……」
さっきまでは笑顔だったのに、いつの間にか真面目な顔になっている。
真面目な顔が、何とも似合わない奴だと思う。
「一つ、俺の願いを聞いてもらえませんか」
真剣すぎる彼の表情に、私は噛み殺しきれなかった笑いをふっと漏らしてしまう。
「いいだろう。……クーデター以外で頼むぞ」
「く、クーデター!? 何ですかそれは!」
「はは」
私は笑う。
本当にそんな日が来たのなら、願い事のひとつぐらい聞いてやるのはやぶさかではない。
まぁ、聞いてやると言っても、叶えてやるとは言っていないのだが。
私につられて、ロベルトも笑い出した。
ひとしきり二人で笑った後、ロベルトは笑顔のままで、切り出した。
「隊長。……いや、エリザベス・バートン嬢」
彼は、私の名前を呼んだ。
おそらく、ダンスパーティー以来のことだった。
「俺と貴女の婚約解消、正式にお受けします」





