エピローグ(2)
通りかかった店員の女性が心配そうに声を掛けようとしてくれたので「大丈夫だよ、ありがとう」とにこりと微笑んでおいた。
頬を染めた女性が去っていくのを横目に、リリアの首根っこを掴んで引き起こす。まったく、お店の人に迷惑だろう。
椅子にのっけてやると、我に返ったらしいリリアがガッと勢いよく私の腕を掴んできた。
「た、助けてくださいエリ様!! この人ネタバラシしてるのに全然引き下がってくれません!!」
「君が言うんだ、それ」
「また他人事の顔する!!!!」
他人事の顔も何も他人事なので仕方がない。
というかネタバレを受けても諦めなかったのはリリアも同じなのだから、これはある種の因果応報なのでは。
せっかくなのだからあの時の私の困惑を味わってみればいい。そして少しは反省してもらいたい。
自分がやられて困ることは、人にやってはいけない。当たり前のことだろう。
やれやれと肩を竦めてから紅茶を口に運ぶと、リリアが頬を膨らませて机を叩いた。
「エリ様面白がってますよね!!??」
「面白いだろ、こんなの」
「ふぎー!!!!」
机に突っ伏して憤慨をあらわにするリリア。
はっきり言ってこんなもの面白い以外の何物でもないので仕方がない。
人間、誰しも勧善懲悪が好きなものだ。自分が困らされている相手がやり返されているのを見るのは面白くて当然である。
「ていうかそもそもこうなってるのはエリ様のせいなのに何で他人事みたいな顔して面白がってるんですか!? もう!!」
「それ前も聞いたよ」
「え、い、言いましたっけ?」
「顔が言ってた」
「顔が!!??」
顔が。
ジンジャーブレッドを摘まんだ後で、いつのまにやら同じテーブルについているユーリに話しかける。
「私のせいじゃないよね、ユーリ」
「え、何聞いてなかった」
ちらりと視線を上げたユーリはこちらを見て、そしてすぐさま手元のハーブティーに視線を戻してしまう。
言葉通りまったく聞いていなさそうだった。
その顔を見つめていると、睫毛を上げた彼女のエメラルドの瞳が、私を捉えた。
不機嫌そうに眉を寄せると、ふんと小さく息をついて目を逸らす。
「アタシ女にキョーミないし」
「え、エリ様を女の子扱いしている……だと……!?」
「宝塚とかハマんなかったし、多分適性ないんだと思いますぅ」
肩を竦めるユーリ。
それは致し方ない。女の子には好かれるほうだという自負はあるが、人間には好みというものがある。ハマらないという人がいるのも当然だ。
「てゆーかアンタ女のくせにリリアお姉様の周りチョロチョロするのやめてくれません? 攻略対象との絡み見たいのにフツーに邪魔なんですけど」
「おや、それは失礼」
「アバーーーッ!!!???」
今度は忍者をスレイヤーするような奇声を上げながら私とユーリの間を割くように聖女チョップを放ってくるリリア。
奇声なしにはコミュニケーションが取れないのだろうか。
「ちょっと!!!! エリ様にそういう態度やめてください!!」
「え、やさし。ガチ主人公ムーブじゃん」
「『私に塩対応するなんて……面白い女』ってなっちゃうじゃないですかぁ!!!!」
「なりません」
それで面白い認定をするほど笑いのツボは浅くないつもりだ。
奇声とともに聖女チョップの方が幾分インパクトがあるだろう。
「てかこんだけリリアお姉様に好かれてるのに靡いてないの生意気」
「そ、そうだそうだぁーっ!!!」
「忙しいなぁ」
あっという間に手のひらドリルをしてユーリの加勢をするリリア。
そんな速さで寝返る主人公がいてたまるか。
こちらに身を乗り出してくるリリアの額を突いて所定の位置に戻しながら、ため息をつく。
「友情エンドだからね、私とリリアは。そろそろ私みたいのに引っかかってたのは忘れてさっさと新しい恋を見つけて欲しいんだけど」
「嫌ですぅ〜!! わたしは真実の愛を見つけたんですぅ〜!! あと5年は粘りますぅ〜!! 絶対受け取ってもらいますぅ〜〜」
「押し付けがましいなぁ」
苦笑いする。
あの時十年は頑張るとか言っていたのがまだ有効らしい。
5年も経つのに変わらぬ熱量で詰め寄ってくるのは、もはや呆れを通り越して驚きを覚えるレベルだ。





