エピローグ(1)
「リリアお姉様♡ もう、聖地巡礼ならアタシも誘ってくださいよぅ♡」
「ヒエ」
リリアと二人でカフェでお茶をしていると、抜き足差し足で忍び寄ってきた巫女候補……ユーリが声をかけてきた。
リリアにしてみれば背後から近寄られたわけで、気配を感じる技能のない彼女は一瞬で縮み上がっている。
私からは丸見えだったので、ああまたか、という感じだ。
あのダンスパーティー以降、すっかりリリアにお熱のユーリに付きまとわれているらしいのだ。
教会での仕事中はもちろん、こうしてオフの日に出くわすことも多い。
リリアを見下しているユーリに一泡吹かせて、前作主人公の威厳を取り戻す。その作戦は大成功だった。いや、大成功しすぎたと言ってもいいくらいだ。
「な、なんで、ど、どど、どこに行くとか、言ってない、のに」
「考えてること一緒なんて嬉しいです♡ 運命ですね♡」
「本当は?」
「いや教会で話してるの聞いたら普通に特定とかヨユーなんで」
「怖いよう!!!!」
リリアが恐れ慄いて席を立ち、ばたばた歩いて私の背後に回り込む。
私の背に隠れながらユーリを威嚇している。リリアの威嚇はまったくと言っていいほど迫力がないなぁと思いながら、のんびり紅茶のカップを傾けた。
「ね? そろそろ観念してアタシを弟子にしてくださいよ♡」
「だ、だから、この前のはお芝居だったって言ったじゃないですか!! あれは偽物で、全然逆ハーレムエンドとかできてないし、わたしはぜんぜん、」
「でも無印のキャラってみんな、好きでもない相手の頼み事とか聞く性格じゃなくないですかぁ?」
「え?」
眉を八の字にしながらおろおろと言い募るリリアに、ユーリがぐいぐいと詰め寄っている。
紅茶にミルクを入れてスプーンでくるりとかき混ぜた。
うん。少し濃い目だったからこれでちょうどよくなったな。お茶請けのジンジャーブレッドとも合いそうだ。
「堅物のアイザックとか絶対無理だし、王太子とか一見やさしいですけど、ああいうおふざけ? 付き合ってくれそうにないっていうか。クリスとヨウならまぁワンチャンあるかもですけど」
ユーリの言葉に、リリアがぐっと言葉に詰まった。
彼女はなかなか鋭いことを言っている。言われてみれば、確かにゲームの中の攻略対象たちは一見主人公に優しいキャラクターもいるが、その実心を開いていないというか、知り合いから友人になるのにハードルが高いキャラクターが多い印象だ。
もともと登場時から主人公に好意的なヨウや、いたずら好きというキャラクター性のクリストファーならともかく、アイザックや王太子殿下はああいった悪ふざけに付き合うようなキャラではない。
ロベルトは――どうだろう。チョロいので挑発したら乗ってくるかもしれないな。
「だから、リリアお姉様に頼まれてお芝居してる時点で、もう完全落ちてるんですよ♡」
「そ、それは、わ、わたしじゃな、くて」
もにょもにょと口ごもるリリアの代わりに、なるほど、と内心で頷いた。
つまり頼んだからといって茶番に付き合ってくれるということは、ある程度の好感度はあるはずだと、そういうことが言いたいのだろう。
それこそ、リリアに自覚がないだけで。
アイザックへは私が口利きをしたが、王太子殿下にはリリアが頼んだわけだ。
それが受け入れられたということは――そして当日かなりの熱量で演技をしていたことを加味すれば、ユーリの言う通りそれなりに好感度が高い状態なのでは。
そう考えながらリリアの顔を見るともなしに視界に入れていると、口を開きかけた彼女とぱちりと目が合った。
するとリリアはぎゅっと唇を真一文字に引き結んて、何やら言いかけていた言葉を飲み込むと、わざとらしく頭を掻きながらてへっと舌を出した。
「……っそ、そうなんですかぁ!!?? いやぁ〜!! 気づかなかったぁ!!!!」
「やっぱ無自覚系主人公つよぉい〜♡ さすが本物〜♡♡」
「で、ででででもわたしみたいな人間のこと、すきなんて」
「きゃ〜♡ 主人公ムーブやば〜♡♡」
「う、ウワーッ!!!!」
リリアが某小さくて可愛らしい謎の生き物のような声を上げて直立不動のまま飛び上がった。
そしてそのまま真後ろに飛びのいてユーリから距離を取ると、しゃがみこんでガリガリと爪を噛みながら虚空を睨みつけている。
完全に挙動不審だった。
どうやら慣れない乙女ゲーム主人公ムーブに身体がついていかなかったらしい。いやだからといって何だその挙動。
乙女ゲーの主人公がしていい動作じゃない。
リリアは地面の一点を見つめながら、非常に早口でぎりぎり聞き取れるくらいの声でぼそぼそと語り始める。
「て、ていうかほら、わたしだって転生者ですし、おすし。ただその知識使っただけで、ぜんぜんすごいとかじゃなくて。前言ってた殿下バグ? とかはちょっとわかんないですけど」
「ゲームの知識あっても無理ですもん、あの逆ハーレム。アタシだってゲームの知識あるのに幼馴染はともかく神父の好感度はゲームで再現性ある程度にしか上がってないし、たぶん理論値そんな感じなんですよ。しかも無印は入学後にしか接点ないキャラばっかな上に好感度管理厳しいしパラ上げしんどいし。つまり、」
「つ、つまり?」
「リリアお姉様がすごいのは、チート知識じゃなくてぇ……天然主人公補正ってことです♡」
「フォカヌポゥ!」
ついに床に崩れ落ちた。





