21.殿下バグ
「ジェネリックじゃなくて正規攻略対象最難関の王太子も入った真・逆ハーレムEND、しかもヨウに、先生まで!? 嘘でしょ、ロードもセーブもないのに……!?」
耳を澄ますと聞こえてきた巫女候補の呟きに、私は内心でうんうんと頷いた。
そうそう、これぞまさに私が求めていたやつである。
顧客の求めていたものと提供されたものが一致している。この反応には私もニッコリである。きっとリリアもニッコリだろう。
横目に確認したところ今は般若のような顔だが。主人公のしていい類の顔じゃない。
ふらり、とよろめいた巫女候補がテーブルに手をついたかと思うと、そのままぎゅっとテーブルクロスを握りしめ……
「えてかこれ理論的に可能? 最初の好きな服の系統で大人系を選ぶのは確定で誕生日は2日連続デートが組みやすい6月29日か10月12日で固定になるけど王太子の親愛度足りないから10月でしょ? で生徒会に所属してそこから先生の下校イベント出るまでリロ、れないんじゃん、は? てかいくらラッキーアイテムあっても下校イベ引くの確率渋すぎてリロなしだと無理でしょどんだけ上振れ引いたらいいの?? 先生の下校イベント最速友好目指す時は8月までに月平均1.5回でしょ? てことは確率3%? いや無理詰むわ普通に」
……うん?
「てかパラ上げどうすんの? 先生もアイザックも結構要求学力パラ高いし勉強パラ上げると今度はクリス攻略に必要なやさしさパラ下がるし。周回特典の女王のティアラ使えるならイケる?? そも週末のランダムイベ引くにも周回特典のリボンないと無理ゲーだしヨウいるしこの世界もしかして周回前提? ……待ってこれPSP初回盤? ってことは殿下バグ使えばワンチャン……!?」
なんて?
「嘘でしょあれ打てるの1フレームしかタイミングないのにそれ決めれる? 周回アイテム全回収前提特大成功ガチャ1/3は当てるなら学力パラ130やさしさパラ130、おしゃれパラ120社交パラ110まではギリギリ、……いや、でもそれで先生まで行くのはやっぱキツい、てかほんと7月のロベルトの誕生日イベントでその週のランダムイベントの枠食われるの邪魔すぎるんだって!! 5月に生まれてれば!! こんなことにならないのに!!」
いつのまにどこから出したのかメモ帳にガリガリと計算式を書き付けて頭を抱え始めた巫女候補。
独り言の情報量が凄まじい。書き付けられた数式の量もすさまじい。
天才物理学者が黒板にぎっしり書くタイプのアレだ。私には何が書いてあるのかさっぱりである。
割と計算高いタイプなのかとは思っていたが……これはちょっと、計算の方向性が予想外だ。
無論、逆ハーレムルートを目指すくらいだからそれなりにやりこんでいたのだろうとは思っていた。
思っていたが、少しばかり想定を超えている。
まるであの辞書のごとく分厚い公式完全攻略本を隅々まで暗記しているかのようだ。
やり込み型にもほどがある。
そして道中出てきた知らんバグの話が気になって仕方がない。
何そのバグ。知らん、こわ。
まさか王太子殿下も自分の名を冠されたバグ技が開発されているとは思うまい。
というか乙女ゲームでバグ技を使ってどうする。RTAでもするのか。
あとロベルトはやはりどのプレイヤーにもやや邪険にされているのが分かって安心した。
5月に生まれろとまでは思ったことはないが。
「あ待ってやっぱヨウも入れるなら5月も週足りない、てことはガチで、殿下バグ使うしかないじゃん……」
ぐしゃり、と手元の紙を握りつぶして、巫女候補がゆらりとその場に立ち上がる。
先ほどまで私やイケメンたちに向けられていたその視線は…….今は、ただ一人。
「あは」
リリアに、向けられていた。
「エグすぎ、こんなん脳汁出る」
脳汁、と言いながら緩んだ唇から涎でも垂らしていたのか、口元を拭う巫女候補。
だが変わらず、その口角はにやりと上がっている。
まっすぐにリリアに向けられるそのぎらぎらとした視線からは、尊敬と、畏怖と……並々ならぬ熱量が、匂い立っていた。
「本物の主人公、すっごぉい……」
彼女の姿に、私は少々引いていた。
そう思ってほしくて始めた物語ではあったのだが……少々着地を誤っただろうか?
いや、見誤ったのは……この子の中身、だろうか。





