17.うちの弟が小悪魔すぎて怖い。
皆さま本年はたいへんお世話になりました!
今年はモブどれ続巻に舞台に、異世界リーマンコミカライズに、スズキさんのネトコン受賞にと、引き続きのことも新しいこともたくさん良いお知らせが出来た年でした。
それもこれも皆さまのおかげでございます。来年も引き続きあたたかい応援のほど、よろしくお願いいたします!
それでは皆さま、よいお年を~!!
「リリア先輩、最初は誰と踊るか決めました?」
続いてリリアに声をかけたのはクリストファーだった。
にこりと人懐っこい笑みを浮かべながら、リリアの顔を覗き込む。
年下キャラを全面に押し出した上目遣いがあざとい。あまりにもあざとい。
思わず彼の実年齢を忘れてしまう。
まぁそもそもが21歳には見えない童顔っぷりであるし、年齢差というのは時が経っても増減するものではないからな。
さすがに半ズボンは卒業していたが、千鳥格子の淡いベージュのジャケットに襟元にフリルがついたピンク色のシャツを合わせる可愛らしく華やかな色選び。
さすが我が弟、己のキャラクター性をよく理解しているチョイスだ。
しかし家でのクリストファーを見慣れていると、リリアと並んでいるクリストファーが背が高く見えて驚く。
そりゃあ乙女ゲームの攻略対象たるもの主人公より身長が低いなどということはないのだろうが、いつまでも子どもの頃の彼を重ねてしまうのだ。お兄様も両親もきっと同じ気持ちだろう。
「エスコートが二人、ってことは、どっちかに決めてるわけじゃないんでしょ?」
「え、ええ」
「じゃあぼくも立候補しちゃおうかな」
小首を傾げると、さらりとストロベリーブロンドの髪が揺れた。
思わず目を見開いたリリアに対して、クリストファーがはちみつ色の瞳をいたずらっぽく細めて照れくさそうに笑う。
「なんて」
はにかむクリストファーの表情は、乙女ゲームの彼よりも翳りのない無邪気なもので、非常に可愛らしくて見るものの心をあたたかくさせるぬくもりを持っていた。
公爵家の中でまっすぐに育った彼の成長に不覚にも感動してしまう。
我が家の不良債権こと姉の悪影響にも負けず、よくもここまでいい子に育ってくれたものだ。
弟の成長を噛み締めていると、ふと彼が少しだけ背を屈めた。
リリアの耳元に手と唇を寄せて、そっと内緒話をするように囁く。
「ぼく、二番目でもいいから……ぜったいぼくとも踊ってくださいね」
ぎりぎり周囲にも聞こえるくらいの声でそう言い置いて、クリストファーがぱちんとウインクを投げた。
前言撤回である。
あざとい。
あざとすぎる。
うちの弟が小悪魔すぎて怖い。ゲーム内のいたずらっ子っぷりを軽々と凌駕している。
そのウインクはどこで覚えたのか、出所が火を見るよりも明らかだった。生産者の顔がありありと見える。私である。
今度家族会議が必要かもしれない。弟の方向性についての。
「ダグラス」
かなりぎこちない動作でリリアの背後に歩み寄っていたアイザックが、彼女の肩に手を置いた。
肩に手を添えるというより、むんずと掴んで「この人痴漢です」と突き出すときのような手つきだ。
そんな強さで女性に触れるやつがあるか。
困惑して振り向いたリリアと目が合って、慌てた様子で手を離す。
その後も手袋を嵌めた手をおろおろと彷徨わせていた。
見た目だけは、問題ない。臙脂と黒を基調にしたモーニングコートに細かく入ったストライプが彼の細身のシルエットにハマっているし、髪も普段のセンターパートではなく横に流すような形できちんとセットされている。
だが動作がどうにも挙動不審だ。
何故だろう。見ているだけでものすごく不安になる。
無理をするなアイザック。一回酒でも挟んで度胸をつけて出直してもいいんだぞアイザック。
とりあえず恙なく終わってくれと心の中でエールを送りながら、ふと思い至った。
……いや?
待てよ。
これはこれで、アリか?
ここまで先生とクリストファーが手慣れていたからこそ、このぎこちなさは彼が初心で純情派であるという特徴を際立たせ、より印象に残る。差別化という意味では良い手だ。
そして眼鏡が服を着て歩いているかのような真面目キャラに求められているリアクションとも親和性が高い。
顔を赤くして人目を気にするように周囲を見回すアイザック。
一瞬こちらを見た、気がするが、あっという間に目を反らされる。
彼は一つ気持ちを落ち着けるように息を吐くと、よく見るポーズで眼鏡の位置を直しながら、ややぶっきらぼうに言う。
「あまり羽目を外すな。目の届くところにいろ」
その言い方は、彼の恋愛への奥手さと不器用さ――そして実直さを表現している、ように受け取れなくもない。
周囲のご令嬢の反応も上々だ。
とりあえずアイザックにしては頑張った方だろう。及第点だ。





