16.ただしイケメンに限る。
「こりゃずいぶん派手な登場だな」
均衡を破ったのは、気だるげな声だった。
声の主……フィッシャー先生が苦笑いしながら3人のところへ歩み寄る。
いつものくたびれた白衣ではなくジャケットを羽織って、きちんとしたスリーピースのセットアップにタイまで締めている。
色合いこそ第一師団の制服と似ているが、光沢のある素材は闇夜に潜むには不向きだろう。
服を着崩していないだけでこれほど見違えるのかと舌を巻いた。追加といえど攻略対象、足の長さが反則級だ。
髪も緩めに巻いたサイドバングを残しながらも額を出すように前髪を立ち上げてばっちりセットされており、だらしない印象がない。
珍しく髭まで剃っている。それだけで3歳は若く見えた。
「後輩たちの晴れ舞台だぞ? お前たちちゃんと分かってるか?」
「これは失敬。せっかく呼んでもらったものだから、張り切ってしまって」
「ったく。みーんな聖女様と話せるってわくわくしてたのによ。これじゃ近づきにくいでしょーよ」
クス、と少女漫画の優美なキャラクターにありがちな笑みを浮かべて応じる殿下を前に、先生はやれやれと言わんばかりに肩をすくめてみせた。
「っつーわけで、おじさんが先陣切ってやるから、みんな遠慮せずに話しかけるように。次の授業で何話したか聞くからなー?」
先生の言葉に、ホールに流れていた緊迫した空気が和らいでいった。くすくすと笑い声まで聞こえてきて、リリアたちが現れる前の賑やかな雰囲気が少しずつ戻ってきた。
なるほど、これはいい手だ。
ここは学園。教師という立場を利用すれば、フィッシャー先生は王太子殿下や大聖女に臆することなく話しかけることができる理由づけになる。
ここで彼が間に入ることで無礼講の雰囲気が生まれ、後に続く者にもやりやすさが生まれるだろう。
さすがは亀の甲より年の功。技ありだ。
「ほら、お前らがべったりじゃみんな遠慮しちまうって」
「フィッシャー先生。ですが、俺は聖女の護衛で」
「いいよな? 聖女様」
ロベルトの言葉を無視して、リリアの顔を覗き込むフィッシャー先生。
リリアはちらりと先生の顔を見上げて、いくらか逡巡した様子で視線を彷徨わせた。
「ええと、はい」
「ん」
戸惑いながらも頷いたリリアの顔を見て、フィッシャー先生がふっと目を細めた。
普段のだらしない雰囲気ではなく、まるで愛おしい者に向けるようなやわらかな微笑に、女子生徒が色めき立つのが分かった。
「いい返事」
そしてそのまま流れるように、リリアの頭を軽くぽんぽんと撫でる。
きゃっと息を呑む女の子の声が私の耳にも聞こえてきた。
これは上手い。普段とは違う表情を見せながらも、年上らしさを垣間見せる身体的接触。
頭ぽんぽんは賛否両論ありつつも、今もなお一部の女子から絶大な人気を誇っている。現在の先生とリリアの状況、年齢差、間柄を含めればここに組み込むのが最善手だろう。ただしイケメンに限る。
見事なコンボが決まった。
恐ろしいほどに手慣れている。
あの微笑もその仕草も、幾度となく幼女に向けられてきたからこその熟練度合いだと言うことに目を瞑れば、満点の出来栄えだった。





